もちろん、このような感染防止策はスポーツ観戦に限った話ではない。コンサート・観劇・映画館・寄席などあらゆるイベントの「有観客」の強い味方になる。職場や学校はもちろんのこと、飲食店の入り口に設置して陰性者だけが入店できるというシステムにすれば、「夜の街クラスター」もかなり防げるはずだ。
しかし、こんな便利なものが日本ではまだほとんど普及していない。プロスポーツ大会の主催者や、「医療科学を用いた経済活動継続のための検査研究コンソーシアム」のように民間が主導してどうにか広めているのが現状だ。
抗原検査キットの配布を妨げる日本の「ある通達」とは?
海外では当たり前のように普及しているものが、なぜ日本ではここまで露骨にマイナー扱いされるのか。この奇妙な現象は、「抗原検査キットへの根強い偏見」だけでは説明できないのではないか、と個人的に感じている。
もっとストレートに言ってしまうと、海外のように「抗原検査キット」を全国民に無料で配布したり、スポーツイベントやコンサートでチケットと共に配布をするということをよしとしない人たちが、このような動きを邪魔しているのではないかと疑り深い見方をしてしまう。
実は日本医師会では、かねてからインターネットやドラックストアで販売されている、「薬事承認されていない精度の低い抗原検査キット」が販売されていることを危惧していた。いい加減な検査で陽性・陰性を自分で判断されたら、さらに感染拡大につながる。これは多くの専門家も危惧するところで当然と言えば当然の主張だ。
ただ、引っかかるのは、この日本医師会からの指摘を受け、厚生労働省医薬・生活衛生局監視指導・麻薬対策課が出した結論だ。今年3月に日本医師会が全国の医師会に出した「新型コロナウイルス感染症の研究用抗原検査キットに係る留意事項について」という通達の中にそれがあるので引用しよう。
とにかく「検査」は医療機関へというわけだ。これを四角四面に受け取ってきっちりと守るとなると、先ほどの米アボットのもののように「精度が高く保険適用されている抗原検査キット」であっても、全国民に無料で配布するとか、入場チケットにつけて配布するというのはかなり「グレー」な話になってしまう。
実際、「医療科学を用いた経済活動継続のための検査研究コンソーシアム」で提供しているアボットの抗原検査キットはあくまで「医師主導治験」での使用という位置付けだ。
つまり、ヨーロッパやオーストラリアのように、抗原検査キットを薬局で無料配布するとか、大規模イベントで参加者に配布するというのは、日本医師会・厚生労働省からすると、両手をあげて賛成という話ではないということなのだ。