「コロナシフト」できない日本のガラパゴス体制

 冒頭でも述べたが、日本の「医療崩壊」という現象は極めて特殊である。世界一の病床数を誇り、人口に対する医療従事者数もそれほど少なくない日本は、理屈からいえば1000人程度の感染者で医療が崩壊するわけがない。しかし、現実は、他の先進国と桁違いに少ない感染者数で、通常医療に支障をきたすようなほど医療体制が逼迫している。

 コロナ危機が始まったばかりでどう対処していいのかわからなかった昨年の今頃は、どの国も医療崩壊の危険があった。しかし、医療資源がそれなりに充実している先進国は、この未曾有の危機に順応する形で、自国の医療体制を「コロナシフト」に変化させることで医療崩壊を回避してきた。しかし、日本だけがなぜか1年以上が経過した今も、「病床が足りてません」「医療従事者がハードワークで死にそうになっています」と、まるで医療体制が整っていない途上国のようなことを叫び続けている。

 これは日本の医療レベルが低いわけではなければ、病床が足りていないわけでもない。「独特すぎる医療体制」が招いたシステムエラーである。海外では誰もが気軽に検査でき、感染拡大防止に大いに役立てられている「抗原検査キット」がいまだに「精度の低い怪しいもの」という汚名を着せられ、普及がまったくといっていいほど進んでいないのも、そんなシステムエラーが起きていることの証左である。

 これを放置して困るのは我々だ。コロナ禍の中でもひたすら目を背け続けてきた、日本の医療のガラバゴスぶりに、そろそろ本格的に目を向けなくてはいけない時期に来ているのかもしれない。

(ノンフィクションライター 窪田順生)