海外の一流大学はやっぱり狭き門
特異なバックボーンや課外活動が必須

 前提として、米国の大学に進学するための条件を解説しよう。

 まず初めに、「入学が易しく、卒業が難しい」ということは、一般的にもよく知られているだろう。卒業が難しいのは実際その通りで、「(米国の大学は)授業のスピードがとても速いにもかかわらず、通年で70点を割ると退学になってしまう」のだと、アゴス・ジャパンで留学指導部マネジャーを務める松永みどり氏は説明する。

 また、入学に関して言えば、例えば今年のハーバード大は5万7000人超の志願者がいたのに対して、合格したのがたったの1968人と、30倍近い倍率だ。それなのに、なぜ「入学が易しい」といわれるのか。

 それは、日本のように単純な学力で測らないからである。実はトータルで見ると、米国の有名大学は日本よりもはるかに難しいともいえるのだ。

 米国の大学の入学では、日本の大学受験のように1回のテストで合否を判断されることはなく、幾つかの条件が必要になってくる。

 まず、入学の必要条件として求められるのが「高校の成績」だ。それなりの大学に行こうとすれば、日本で言うところのオール5に近い成績がなければまず厳しい。

 続いて、米国の大学には「多様性を重視する考え方」がある。珍しいバックグラウンドを持つ学生は他の学生よりも優遇されるのだ。「名門大学ほど、同じ高校や地域から取るのを嫌う。入学後のディスカッションで多様な意見が出るように、国籍やバックグラウンドのバランスを考えて集める」のだと松永氏は言う。

 そして、日本人に最もハードルが高い要件は、「課外活動の実績」が強く求められることだ。スピーチコンテストやディベート大会、海外ボランティアへの参加経験や、部活動での好成績など、高校生活の中でどんなことを考え、実際に行動を起こしたのか。そしてそれがどのような成果につながったかをかなり細かく見られる。

 年間20人前後が入塾し、そのうちの9割をハーバードなど名門大学に輩出している海外トップ大学進学塾Route Hの責任者、尾澤章浩氏によれば、「年間300人ほどの入塾の応募があるが、名門大学に進学できる可能性のある学生以外は断っている。その代わり、レベルの合った海外大学に挑戦できるベネッセGLCというオンライン塾を勧める」と語る。

 実際にRoute Hから名門大学に行った学生は、ディベートの世界大会で優勝していたり、高校生にして大学と共同研究を行って論文を学会で発表していたりと、普通の高校生ではあり得ない経験を積んでいるケースがほとんどだ。中には、世界大学ランキングで4位に位置する米カリフォルニア工科大学の大学院に、通信制高校を卒業した高校生が大学をすっ飛ばして合格したケースもあり、“天才”といえるレベルの学生が在籍していることも珍しくない。

 また、日本を代表する進学校、開成高校では、2013年からOB組織「グローバル開成会」を発足して、現役生の海外大学進学の支援を行っており、海外で活躍する1200人もの開成OBが協力して、海外大学進学者を増やしている。

 このグローバル開成会の発起人である富樫尚人氏も、「(海外大学進学を決める生徒は)チャレンジ精神の強いやんちゃな人が多い。東大の理三(理科三類)を蹴って海外に行く人もいたりするほどだ」と語る。卒業後のキャリアも、国内の枠に収まらず、例えば、開成高校からハーバード大に行った大柴行人さんは、20代でAIベンチャーを米国で共同創業した。

 このように、課外活動やバックボーンに個性を持ち、高校の成績と英語力とで高いスコアを獲得することは、並大抵のレベルの高校生には難しい。しかも、留学生の場合は入学できる割合が決まっており、大学全体の合格者のうち10%ほど。現地の学生よりもかなり狭き門となる。

 また、学力だけでなく、費用面でも高いハードルがある。4年制大学の学費は私立大学で年間700万円前後、州立大学でも同300万円ほどかかる上、そこに滞在費も乗ってくる。IELTS奨学金や日本学生支援機構の海外留学支援制度、柳井正財団の海外奨学金プログラムやKiyo Sakaguchi奨学金など、返済なしの奨学金も存在するが、奨学金をもらえたとしても学費と滞在費を全てカバーできるわけではない。

「取りあえず海外大学」は危険!
知っておくべき米国の大学の種類

 片や、費用面をクリアできるならば、このような名門大学には手が届かなくても、「そこそこのレベルの海外大学であれば入れるのでは?」と考える保護者も多いだろう。

 この場合に気を付けなければならないのは、「取りあえず海外大学に行きさえすればいい」という考えだ。大前提として、米国をはじめとする海外大学は、入試制度や大学が求める人物像、教育内容まで、あらゆる点が根本的に日本の大学とは異なる。そして、ここからが重要なのだが、米国の大学は大きく5種類に分類され、それによってレベルも学生の質も全く変わってくるのだ。

 このことを知らずに、「取りあえず海外大学に進学したい」「英語力を身に付けるために留学をしたい」と思い立って安易に留学すると、滞在費や時間だけを取られて帰国することになりかねない。

「子どもを海外大学に進学させようとする保護者と、私立中学受験をさせる保護者の層はかぶることが多い。良質な学習環境を求めて中学受験をしているのに、なぜか海外大学に進学させるときは環境を全く考えず、取りあえず海外大学ならどこでもいいと考えてしまう」

 そう語るのは、米国留学の進路指導に40年以上の実績をもつ栄陽子留学研究所所長の栄陽子氏だ。