日医工の査察で富山県に「忖度」はあったのか?疑いに拍車をかけた社長の発言Photo:PIXTA

 1本の動画がある。5月中旬、富山県薬剤師会が会員向けに開いたウェブ説明会(非公開)の様子を記録したものだ。地元を代表する後発品企業である日医工で品質問題が発覚したことから、関係者に説明を求めるために開催。日医工の関係者のほか、県くすり政策課の青栁ゆみ子課長が呼ばれた。青栁氏に出席が求められたのは、日医工への行政処分の経緯を聞くためだが、それ以外にも理由がある。日医工に対する査察で「忖度」があったのではないかという疑いからだ。

 県は3月3日、日医工が富山第一工場で後発品を不正に製造していたとして医薬品医療機器法に基づき32日間の業務停止処分を下した。しかし、県が日医工の違反を知ったのは1年も前の20年2月。「行政処分までに時間がかかり過ぎで、地元企業である日医工への忖度が働いたのではないか」との疑念が県薬剤師会の間で広がっていた。「くすりの富山」で知られる富山県は、300年前から医薬品産業を地場産業としており、行政との結びつきが強い。その県のくすり政策課長である青栁氏は、窮地に立たされていた。

田村社長の「発言」で拍車

 査察の陣頭指揮をとった青栁氏は薬剤師の資格を持つ、いわゆる薬系技官だ。厚生労働省の審査管理課(当時)をはじめ、経済課、監視指導・麻薬対策課(監麻課)、国際課などを経て富山県に出向した。富山県への出向は薬系技官の出世コースで、将来を嘱望された官僚のひとりと言える。一見すると小柄で大人しそうだが、青栁氏を知る人物は「根っからの監麻課あがり」と評する。実際、査察で舐めてかかられないよう心掛けているようで、隙がなく毅然とした態度が滲み出ている。当然ながら企業の不正には厳しい姿勢で臨むことでも知られている。そんな青栁氏が疑われていたのだ。