スローガンを書いたのぼりを持っているだけで逮捕される

写真左側の緑色のコートは、香港で抗議集会やデモの出発地となっているビクトリア公園。右の輝く建物は、国家安全法施行後にできた国家安全公署のオフィスビル。ビルが広場を見下ろすように建っている。 Photo by Furumai Yoshiko写真左側の緑色のコートは、香港で抗議集会やデモの出発地となっているビクトリア公園。右の輝く建物は、国家安全法施行後にできた国家安全公署のオフィスビル。ビルが広場を見下ろすように建っている Photo by Furumai Yoshiko

 実際、同法施行後の香港ではこれまでの常識では考えられない事態が続出している。

 まず、同法施行翌日の2020年7月1日、主権返還記念日に合わせて行われた市民デモの際、「光復香港 時代革命」(香港を取り戻せ、革命の時代だ)という2019年デモのスローガンを印刷したのぼりを立ててバイクを走らせた男性が、デモの警戒に当たっていた警官隊に突っ込んだという容疑で国家分裂煽動容疑およびテロ活動容疑で逮捕され、同法適用第1号となった。

 この唐英傑という26歳の男性の公判がようやく、事件からほぼ1年近くたったこの6月23日に始まった。公判開始がここまで遅れたのは、今年2月に律政司(検察庁に相当)が彼の公判において陪審員制度を採用せず、国家安全法によって指定された3人の裁判官が審理を行うと決定したからだった。唐被告の弁護団は「陪審員制度は香港がイギリスの植民地だった時代からずっと引き継がれた、被告の権利を守る制度だ」と主張、「国家安全法が香港のすべての法律を凌駕するものか否か」を巡って弁論が行われた。

 しかし、6月22日に控訴廷において、「陪審員審理は絶対的な権利ではなく、公平な審理に達する唯一の方法でもない」として被告側の訴えは退けられた。つまり、今や国家安全法は、イギリスからの主権返還後「50年不変」がうたわれたはずの香港において、イギリス統治時代から引き継いだコモン・ロー制度を凌駕する立場にあることを法廷が認めたことになる。

 そして、唐の公判開始とほぼ同時に起こったアップル・デイリーおよびネクスト・デジタルのトップ逮捕と取り締まりも、やはり「国家安全を損なう外国勢力との結託」容疑だった。しかし、メディア企業による「外国勢力との結託」とはいかなるものなのか? メディア界に湧き上がった疑問の声に、香港警察はまたも、「国家安全法に触れる容疑について、詳細を公開することはできない」としてだんまりを決め込んでいる。