38万部超のベストセラー『餃子屋と高級フレンチ』シリーズでおなじみの著者・林總氏の最新刊『たった10日で決算書がプロ並みに読めるようになる! 会計の教室』がダイヤモンド社から発売。本連載では、同書の中から抜粋して決算書を読み解くために必要な基本の知識をお伝えしてきました。今回も特別編として書下ろしの記事を掲載します。登場人物は、これまでと同じく林教授と川村カノンの2人。注目企業の決算書はどうなっているのか? 注目企業の会計のカラクリなどについて解き明かしていきます。しばしお付き合いください。好評連載のバックナンバーはこちらからどうぞ!
「キャッシュなき利益」とは何か?
林教授 今日から、このレクチャーに上野君が参加することになった。
上野 田端君とカノンさんと同じ大学に通っています。それから田端君と同じ財務会計のゼミに入っています。
林教授 早速だが、今日は「キャッシュなき利益」について考えてみたい。確か君はボクの本を何冊も読んでくれているようだね。
上野 5~6冊読みました。ゼミの先生から勧められたものですから。
林教授 では、「キャッシュなき利益」の意味はわかるかね?
上野 利益は収益から費用を差し引いた概念で、収益は貨幣性資産の裏付けが不可欠です。だから、キャッシュなき利益というのは、「貨幣性資産である売掛金の回収がされていない状態」だと思います。
カノン 財務会計しか勉強していないと、あなたのような答えになるのは当然ね。でも、管理会計を勉強すると、見方が変わってくるの。つまり、「キャッシュなき利益」のもっと大きな原因は、在庫が増えすぎたことにあるの。
林教授 そうだね。在庫を制御できなくて四苦八苦している会社を取り上げよう。日立建機だ。以下は日経の記事だ。
「日立建機の営業利益と営業キャッシュフローの推移をみると、営業最高益だった19年3月期は営業CFはマイナスに転じていた。販売機会ロスを恐れて在庫を積み上げていたためだ。運転資本がふくらみ、90日を切っていたキャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)は一時180日近くに延びてしまった(2月26日付日本経済新聞)」
上野 営業利益が最高で営業CFがマイナスですか? 営業CFは会社がビジネスで稼いだお金ですよね。つまり、1年間商売した結果、利益は最高だったのに会社のお金が減ってしまった、ということですか。何か切ないですね…。
林教授 その通り、実に切ない。では、こんなことになってしまった原因は売掛金の回収遅れだけではなく、むしろ在庫の増加にある。
上野 在庫が原因なんて考えたこともなかったです。