民間が生活困窮者への支援を行うようになった

 2019年の「国民生活基礎調査*7 」によれば、2018年の「相対的貧困率」は15.4%(対2015年で0.3ポイント減)、「子どもの貧困率*8 」(17歳以下)は13.5%(対2015 年で0.4ポイント減)だ。数字は微減しているものの、2020年初頭からの新型コロナウイルス感染症の拡大は大きな影響をもたらすだろう。コロナ禍以前からコロナ禍の現在につながる“生活困窮者に対する社会の向き合い方”を、大山さんはどう見ているのか。

*7 厚生労働省が、保健・医療・福祉・年金・所得など、国民生活の基礎的な事項に関して実施する調査。昭和61年(1986年)から毎年実施されている(2021年調査は、6月3日及び7月8日の両日に実施)。3年ごとに大規模調査が行われ、その間の各年には世帯の基本的事項と所得状況についての簡易調査が行われる。(厚生労働省 国民生活基礎調査より)
*8 「子どもの貧困率」とは、子ども(17歳以下の者)全体に占める、等価可処分所得が貧困線に満たない子どもの割合のこと。(国民生活基礎調査(貧困率)よくあるご質問より)

大山  「生活困窮者への支援を民間人が行うことは難しい」というのが、 “業界”の共通認識でした。では、どういう人が関わり、支援していたか――生活保護制度の担当者だったり、医療ソーシャルワーカーだったり、生活相談員だったり、学校の先生といった教育関係者だったり、長らく、生活困窮者への支援はこうした限られた人の領域でしたが、いくつかの波が起きてきました。

 最初の波は2006年*9 くらいでしょうか。それまでは、たとえば、行政が個人情報を保護したうえで行う生活保護についてはあまり表立たず、政治家の「日本に貧困はない」という発言もあったりしました。しかし、その後、ワーキングプア、ネットカフェ難民、年越し派遣村のことなどが報道され、「日本にも貧困がある」事実が広く知られ、「役所の支援だけでは足りない」という考えが出てきました。「公務員、社会福祉法人だけではなく、民間の力を借りよう」と。具体的には、仕事探しや就労支援を職業紹介の業者に依頼したり、教育支援をNPOに委託したりといった動きです。

 ただ、これらは、行政機関がお金を払って外部にお願いするものであり、特定のルールに基づいていました。ホームレス支援や労働組合など民間主体の取り組みもあったものの、いわば「プロ・ボランティア」とも呼ばれる人たちで、広がりは限定的なものでした。

 しかし、ここ数年は、民間のボランティア団体や企業が生活困窮者の支援に乗り出す新たな波が起きています。行政との連携はあるものの、行政のコントロール下にはない取り組みで、そのひとつが、「フードパントリー*10 (食品の無料配布)」です。

*9 「NHKスペシャルで『ワーキングプア~働いても働いても豊かになれない』が放送され、この番組を転機にして、社会に新しい貧困が広がっているという視点での報道が増えていきました。」(大山典宏著「生活保護vs子どもの貧困」PHP新書より 番組放送は2006年7月23日)
*10  「フードパントリーは、ひとり親や生活困窮者など、生活に困っている人々に食料を無料で配布するための地域の拠点です。」(埼玉フードパントリーネットワーク より)