コロナ禍で全国に広がっている「フードパントリー」という取り組み

SDGsのゴール1は「貧困をなくそう」であり、極度の貧困*1 の中で暮らす人々は世界で約7億8300万人となっている。いまから12年前の2009年に、ビジネス経済誌「週刊ダイヤモンド」は、「あなたの知らない貧困」という特集を組み、「目に見えない貧困が日本を蝕んでいる」と説いたが、未だ、多くのビジネスパーソンにとって、このゴール1は「あまりピンとこない」のが本音だろう。そうしたなか、コロナ禍にある先行き不透明な日本社会で、生活困窮者に対する取り組みが民間ベースで広がっているという。書籍『隠された貧困 ~生活保護で救われる人たち~』などの著者であり、高千穂大学准教授の大山典宏さんにその現在進行形を聞いた。(ダイヤモンド・セレクト「オリイジン」編集部)

*本稿は、現在発売中のインクルージョン&ダイバーシティ マガジン 「Oriijin(オリイジン)2020」からの転載記事「SDGsの誕生理由とは?今後どんな成果を実現していくのか、改めて振り返ってみる」に連動する、「オリイジン」オリジナル記事です。

*1 「極度の貧困」の定義となる「世界銀行が定めた国際貧困ライン」は、1日あたり1.9ドル未満の所得・消費水準に満たない状態のこと

第三者が「見えない」「気づかない」状態にある「貧困」

 SDGsのゴール1は「貧困をなくそう」――しかし、SDGs自体が国連で定められたものということもあり、多くの日本人にとっての「貧困をなくそう」は、国内の問題というより、むしろ、対岸の問題で「知らぬ、存ぜぬ」感が強いのではないか?

大山 日本における「貧困」は、たしかに目に見えづらい問題です。「貧困は恥ずかしいもの」と多くの人が思い、経済的な困難を抱えている人はそのことを表にあまり出さないようにしています。現在はファーストファッション*2 があったり、携帯電話の低価格な契約ができたりと、お金に困っている人とそうでない人が、第三者の見た目からはっきり分からない場合が多いのです。でも、生活保護制度*3 利用者やひとり親家庭*4 で生活に困窮している人や子どもたちは場所を問わずにいます。同じ集団内にそうした人がいても、「見えない」「気づかない」ことがある事実を、まずは知っておきたいですね。

*2 ファーストファッション(ファストファッション)とは、流行のデザインを取り入れた衣料品を迅速に大量生産し、短期間に売り切ってしまうファッション・ブランド、あるいはそのビジネスモデルのこと(日本大百科全書〈ニッポニカ〉より)
*3 生活保護制度は、生活に困窮する方に対し、その困窮の程度に応じて必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障するとともに、自立を助長することを目的としています。(厚生労働省 生活保護制度より)
*4 2015年(平成27年)の「国勢調査」によれば、母子のみにより構成される母子世帯数は 約75万世帯、父子のみにより構成される父子世帯数は約8万世帯。また、2016年(平成28年)の「全国ひとり親世帯等調査」によれば、母子以外の同居者がいる世帯を含めた全体の母子世帯数は約123万世帯、父子以外の同居者がいる世帯を含めた全体の父子世帯数は約19万世帯になっている。 (PDF 令和3年4月 ひとり親家庭等の支援について 厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課より)

「貧困」の定義としては、「絶対的貧困」と「相対的貧困」がある。「絶対的貧困」は、生存維持のための必要最低限の生活がほとんどできない状態で、サハラ以南のアフリカと南アジア地域に居住する人々に多い*5 。一方、「相対的貧困」は、その国や地域の生活水準と比較してのものであり、開発途上国・先進国を問わずに存在する。相対的貧困の議論で用いられる指標のひとつが「相対的貧困率*6 」だが、その数字の推移を理解しているビジネスパーソンは多くないだろう。

*5 THE WORLD BANK 「1年を振り返って:14の図表で見る2019年」より
*6 国民生活基礎調査における「相対的貧困率」は、一定基準(貧困線)を下回る等価可処分所得しか得ていない者の割合をいう。「貧困線」は、等価可処分所得(世帯の可処分所得(収入から税金・社会保険料等を除いたいわゆる手取り収入)を世帯人員の平方根で割って調整した所得)の中央値の半分の額のこと。(国民生活基礎調査(貧困率)よくあるご質問より)

大山 そもそも、「自分が貧困である」ことに気づいていない人もいます。「貧困とは何か?」や「絶対的貧困・相対的貧困」といった概念を学校の授業で習うことがほとんどありませんから。そうしたなか、月末の夕食のおかずがもやしだけになったり、修学旅行のお小遣いがなかったり、お金のかかる部活ができない、塾に行けないといった状況の子どもたちがいます。でも、そのことを友達には言いません。家庭では、食費とか光熱費とか、他者に気づかれにくいものを削っていき、通信代は削らないことが多いですね。いまや、携帯電話は、生存のためのコミュニケーションツールになってきているので、生活に困っていても通信代は優先されるのです。

大山典宏 高千穂大学人間科学部准教授

大山典宏(おおやま のりひろ)

高千穂大学人間科学部准教授。1974年生まれ。専門は、社会保障論、公的扶助論。社会福祉士。日本社会事業大学大学院福祉マネジメント研究科修了。埼玉県志木市役所、埼玉県庁を経て現職。内閣府子どもの貧困対策に関する検討会構成員(オブザーバー)など、貧困問題の専門家として幅広い活動を続けている。著書に、『生活保護vsワーキングプア』『生活保護vs子どもの貧困』(以上、PHP新書)、『隠された貧困』(扶桑社新書)など。特定非営利活動法人 埼玉県フードパントリーネットワークには、立ち上げから顧問として関わっている。