ひとり親家庭を対象に行われているフードパントリー

大山 フードパントリーの一類型として、埼玉県内で行われている「子育て応援フードパントリー*11 」は、ひとり親家庭を対象に、食品の支援を2カ月に1回程度行っているものです。地域内の特定の場所で食品を自由に選んでもらい、ご自宅に持って帰っていただくかたちで、行政からの委託事業ではなく、民間の有志が行っています。フードパントリーは、3年くらい前(コロナ以前)は3~4カ所での実施だったのが、いまや(埼玉)県内だけで50団体を超え、2500世帯くらいに定期的に食品を配っている状況です。

*11 「子育て応援フードパントリーは、ひとり親などの経済的困難を抱える者に生活に必要な食材などを提供する取り組みである。『必要とする子どもたちに届かない』というジレンマを感じる子ども食堂の運営者らによって発案されたこの取り組みは、関東圏を中心として、近年、急速に広がりつつある。」(全労済協会「WELFARE 2020Spring」 大山典宏執筆「子どもの貧困対策の新たな取り組み:子育て応援フードパントリー」より)

 実は、フードパントリーの広がりにはコロナの影響がありました。緊急事態宣言*12 で、多くの飲食店が時短営業の実施や休業を余儀なくされ、それによって、注文のキャンセルを受けた食品の卸業者が商品を廃棄せざるを得なくなったのです。一方、2020年4月の最初の緊急事態宣言では、全国の多くの小・中学校が休校となり、ひとり親家庭で仕事を持っているお母さんたちが特に困ってしまいました。子どもは家にいるのに仕事を休むことができない。パートなどの非正規雇用だと解雇される可能性も高い。コロナによる雇い止めで収入が途絶えてしまったひとり親家庭もありました。そこで、フードパントリーや子ども食堂の運営者が、「給食も食べられずに独りで家にいる子どもたちを何とかしなければ…」という思いで、「ひとり親家庭に食品を配ろう」となったのです。卸の業者さんたちから「それなら、うちの食品を(無償で)引き取ってもらえないか?」という声が寄せられ、学校給食の業者さんたちも協力してくれました。

*12 2020年4月7日に、東京・神奈川・埼玉・千葉・大阪・兵庫・福岡の7都府県に緊急事態宣言が発令され、4月16日に、その対象が全国に拡大した。2回目の緊急事態宣言は2021年1月8日に発令され、3月21日に全国で解除された。3回目の緊急事態宣言は2021年4月25日に東京・大阪・兵庫・京都の4都府県に発令され(その後、福岡、愛知、北海道、岡山、広島、沖縄に拡大され)、沖縄を除く9都道府県は6月20日に解除された。さらに、東京都に対しては4回目の緊急事態宣言が7月12日から8月22日まで発令され、沖縄県は8月22日まで延長となっている(2021年7月12日現在)。

フードパントリーの様子埼玉県内の「子育て応援フードパントリー」の様子。食品配布の会場は、利用者同士の交流の場にもなり得ている

 もともとは行政(県庁・市役所)職員で、現在は「貧困」をテーマとした研究者の大山さんは、特定非営利活動法人 埼玉フードパントリーネットワーク*13 の「顧問」も務めている。誰もが認める専門家だが、最初にフードパントリーを訪れたときには多くの驚きがあったという。

大山 誤解を恐れずに言えば、フードパントリーには人と人のコミュニケーションのうえに成り立つ「感動」があります。初めて訪れたときはいろいろなことに驚きました。フードパントリーには多くの方がご家族でやって来ます。夕方、母親の仕事が終わってからだったり、保育園のお迎えの帰りだったり、部活動後のお子さんと一緒だったり…スーパーの袋を持ってくる人もいれば、スーツケースで来る人もいました。体格のいいお兄ちゃんが母親に「俺が(荷物を)持つよ」と言い、幼稚園児くらいのお子さんがお菓子コーナーで、ボランティアの人に「選んでいいの?」と恐る恐る尋ねて、ひとつひとつを大切に選んでいました。「じゃあ、これにする!」と決めて、お母さんが「ありがとうございました」とボランティアさんに礼を言い、うれしそうに帰っていく姿が印象的でした。

*13 特定非営利活動法人 埼玉フードパントリーネットワーク(埼玉FPN)は、埼玉県内でひとり親家庭や生活困窮者を対象に食品を無料で配布するフードパントリーの活動を行っている団体のネットワーク。2020年12月設立。26市町52団体加盟。(2021年6月現在)