まず、判決までに長い時間がかかる。被害の期間も長期にわたるものが多く、川上さんの場合は2018年8〜9月の被害、福田さんらの場合は2016年1月〜18年6月までの被害だ。

 伊藤さんについては、訴訟の対象となった大澤氏のツイートは2020年6月の投稿1件だ。ただし、大澤氏が伊藤さんに言及したツイートは他にも複数あり、訴状の中でも「一連のツイート」として列挙されていたが訴訟対象を1件に絞った理由は、判決までの時間を短くし負担を減らす意図があったという。

 伊藤さんはこれ以外にも杉田水脈議員、漫画家のはすみとしこ氏らを相手に訴訟を起こしており、これらについての判決は来年以降になるとみられている。

 また、これまでにも繰り返し言われている通り、匿名の相手を訴えるハードルは高い。誹謗中傷を行った投稿主が誰かを特定するまでに、まずプロバイダーに対して発信者情報開示請求を行い、投稿者を特定しなければならない。東京地方裁判所の開廷表を見ると、1日に何件も発信者情報開示請求の裁判が開かれていることがわかる。しかし発信者情報開示請求を行ったとしても、その投稿が誹謗中傷とまではいえないなどと判断された場合に訴えが却下されることもある。

 おびただしい数の誹謗中傷ツイートがあったとしても、そのすべてを訴えることは現実的にはなかなか難しいのだ。

判決ではツイートの悪質性が列挙された

 さらに問題なのは、裁判の結果がネット上での誹謗中傷をストップさせるかといえば、必ずしもそうではないことだ。

 大澤氏の場合、判決の前から、請求額が110万円であるから認められた賠償金が55万円以下であれば大澤氏の「勝訴」であるという独自のルールを設定し、「メディアで『一部勝訴』と報道されるのは実質的な引き分けだ」「俺の予想が正しければ、伊藤詩織は敗訴したのにメディアで勝訴と言い張るはずです」「今回ばかりは伊藤詩織も相手が悪かったな」などと繰り返しツイートしていた。さらに後述するように、判決後も自分が「大勝」したという独自の解釈をツイートし続けている(7月15日現在)。

 いったん訴えと判決を確認しよう。