訴訟対象となったのは、伊藤さんと同姓同名の通名を使っていた外国人女性が東京地裁で破産手続き開始決定を受けた官報公告の画像を添付し、「#性行為強要」などのハッシュタグをつけた上で「伊藤詩織って偽名じゃねーか!」と書いた2020年6月24日16時58分のツイート。

 大澤氏側は、この官報広告の人物が伊藤さんではないことがすでに広く知られていたため、ツイートによって事実を摘示したとは認められないし、伊藤さんの社会的評価は低下しないなどと主張。判決で、これらの主張はすべて否定された。

 また判決では、大澤氏が行ったツイートの悪質性について次のようにも述べられている(判決文から一部を引用。(※)部分は原文では証拠番号)。

「通名を『偽名』と誇張して記載した上、その裏付けであるかのように官報公告記事の画像を転載するなど、読者の誤認を殊更誘引する演出を加えたもので、悪質である」

「被告は本件ツイートの理由を自ら説明しないが、原告を名指しで中傷する態様でなければ名誉毀損とならないという趣旨の先行ツイート(※)を踏まえると、本件ツイートでは、あえて原告とは別人である者を対象とする表現行為の体裁を用いて、先の持論のもと名誉毀損とはならないとする方法を実践したことがうかがわれ、そうであるとすれば身勝手な動機に基づくものと言わざるを得ない」

「被告は、本件の提訴報道後、ツイッター上に『伊藤詩織とかいう活動家が突然俺を訴えると言い出した。正直全く意味が分からない。』、『俺は断固抗戦する。』、『【悲報】伊藤詩織、裁判前に一方的な会見を開き世論を味方に付けようとするも。反応が真逆で大失敗してしまう。』などと投稿し、原告に対する攻撃的な姿勢を軟化させていない」

(※)「伊藤詩織が訴外Bを訴えるって話だけど、どういうロジックで訴えるんだ?別に伊藤詩織を名指しで誹謗中傷してるわけじゃないから、名誉毀損には当たらないでしょ。」

 つまり判決では、大澤氏がフォロワーに向けて行っていた自己弁護のためのアピールを「演出」「名誉毀損とはならないとする方法を実践」と看破、「身勝手な動機に基づくもの」「攻撃的な姿勢を軟化させていない」と断じている。

原告代理人「誹謗中傷を許さない社会への一助に」

 伊藤さんの代理人となった山口元一弁護士は、「名指しで中傷しなければ名誉毀損にならないという独善的な解釈が身勝手と評価されたこと」、「提訴後も原告に対する攻撃的な姿勢を維持している態度がマイナス評価されていること」など、すべての主張が認められた点について満足しているとした上で、次のようなコメントを発表している。

「損害賠償額はもっと高額であるべきだったが、ネット、特にTwitter上の誹謗中傷は、個々のツイートがそれぞれ悪質という点とは別に、誹謗中傷が多くのユーザーの目に触れることによってリツイートやコピーされるなどして新たな誹謗中傷を呼び、いわば大量の誹謗中傷となって被害者に襲いかかり、大きな苦痛を与える点に問題がある」

「本件でも、同種のツイートをしたのは大澤氏だけではないし、多くのユーザーが大澤氏のツイートをRTしている。代理人は、判決が、ネット上の誹謗中傷を許さない社会への一助となることを願っている」