ヒューレット・パッカードといえばパソコン普及期、クライアント/サーバー時代に重要な役割を果たしたハードウエアメーカーだ。シリコンバレーの老舗企業だが、現在はパソコン事業を「ヒューレット・パッカード」(以下、HP)として切り離し、「ヒューレット・パッカード・エンタープライズ」(以下、HPE)としてクラウドの時代に合わせた変革を図っている。HPEの社長兼CEOアントニオ・ネリ氏が現在進めるのは、ハードウエアベンダーからサービス企業への変革だ。しかし企業が自ら“変わる”ことは非常に難しい。なぜ、パソコンメーカーの老舗であるヒューレット・パッカードは、クラウド重視へかじを切ったのか? ネリ氏の話からは、日本企業が学べる点も多そうだ。(ITジャーナリスト 末岡洋子)
シリコンバレーのシンボルからの脱落
Apple、Google、Facebookなどの超大手グローバルIT企業が立ち並ぶ、カリフォルニア州北部のシリコンバレー。その発祥の地とされる、パロアルトにある小さなガレージをご存じだろうか。1938年、このガレージでビル・ヒューレットとデビッド・パッカードが設立したのが、ヒューレット・パッカードだ。パソコンとサーバーのメーカーとして一時代を築いたが、2010年ごろからじわじわと普及を始めたクラウドコンピューティングにより、事業の立て直しを強いられた。
これまで企業は自社内にサーバー、ストレージ、ネットワークなどのシステムを持ち、設定から運用保守まで自前で行ってきた。これに対して、インターネットを利用してクラウドの向こうにある専門事業者のデータセンターの処理能力やストレージにアクセスするというクラウドコンピューティングは、面倒な設定やメンテナンスの手間が不要という便利さをもたらした。クレジットカードさえあれば、必要な時にすぐに処理能力やストレージが得られる上、機器を設置する場所も必要ない。このようなメリットからクラウドは受け入れられた。
さらに、ここで躍進したアマゾン(サービス名はAWS:Amazon Web Services)などは、高価なサーバー機器を購入することなく“ホワイトボックス”といわれるノンブランドの安価な機器、オープンソースのソフトウエアなどを利用する。つまり、全体で見たときに地球上が利用する処理能力やストレージの総量は増えていたとしても、必ずしもHP(当時)のような伝統的なハードウエアベンダーの機器が使われているわけではなかったのだ。