例えば、1ドル=200円のとき、アメリカ人は1ドルで200円分の買い物ができます。しかし、これが1ドル=100円となればアメリカ人は1ドルで100円分の買い物しかできなくなります。日本視点で考えると、1ドルの買い物に200円必要だったのに、100円ですむようになったのは円の価値が高まったからです。これが円高です。

 具体的な例で説明します。日本で1000円の商品をアメリカに輸出するとします。1米ドル100円ならアメリカでは10米ドル。一方、1米ドル200円ならアメリカでは5米ドルです。当然、5米ドルのときのほうがアメリカ人にとっては安く、買いやすいですね。だから円の価値が高くなると、輸出不振になるわけです。

攻めるスイス、怒るアメリカ

 2011年当時、スイスのGDPのおよそ40%は輸出用工業製品の生産によるもので、その6割がヨーロッパ諸国に輸出されていました。スイスは山岳国家であり、「綺麗な空気」と「綺麗な水」が得られる地の利を活かし、農閑期の内職として精密機械が発展してきました。こうした工業製品は、スイスフラン高になると輸出が伸び悩みます。

 そこでスイスは、「1ユーロ=1.20スイスフラン」を上限とする無制限介入を決めました。スイスフランを増刷し、これを売ってユーロを買うのです。スイスフランを市場で増やして価値を下げようとします。ユーロを買うわけですから、外貨準備高を拡大させることとなりました。この政策は3年半続きました。

 その結果、外貨準備高がGDPのおよそ70%にまで拡大。欧州中央銀行が量的緩和を実施すれば、上限を維持することは不可能であると判断し、2015年1月にこの上限を撤廃しました(実際に欧州中央銀行は量的緩和を実施しました)。上限の撤廃はIMFへの事前報告もなく、「不意打ち」であったため、多くの投資家が大損害を被りました。

 そして2017年、再び通貨価値が高まると、スイスの輸出産業だけでなく、観光業も大打撃を受けました。

 2020年にはコロナ渦によって安全資産を求めた投資家のスイスフラン買いが進み、再びスイスフランが高騰して、スイスは為替介入を発動しました。しかし、これに対して、アメリカ合衆国はスイスを「為替相場の不正操作国」として認定しました。これはアメリカ合衆国が対スイス貿易で、輸入超過(貿易赤字)であったことも一因かもしれません。

(本原稿は、書籍『経済は統計から学べ!』の一部を抜粋・編集して掲載しています)