「内定者フォロー」の正しい目的を学生が理解すること

 「内定者フォロー」のひとつとしてよくあるのが、資格の取得やそのための予習(勉強)を企業が学生に行わせるものだ。

谷出 IT業界なら、「ITパスポート試験」のためとか、入社後の何らかのテストをみんなで受けるためにその勉強をやっておきましょう、といったものがあります。でも、入社前なので、強制はさせられません。「やらなくてもいいけど、やった方が得だよね」という提案です。「社会人になる4月からは生活も大きく変わるだろうから、学生時代のいまからできることをやっておくのはどうかな?」という姿勢で、内定(内々定)を出した学生の意思を尊重することが肝要です。

 冊子形式のテキストやeラーニング、SNS機能を持つアプリの共有など、企業が学生に用意する「内定者フォロー」の“ツール”もさまざまある。しかし、「面倒だ」「入社してからやればいいのに…」といった、ネガティブな考えを持つ学生もいるだろう。

谷出 たとえば、課題の提出など、学生自身が「内定者フォロー」の実施目的を理解できているかどうかで、ツールの価値が変わります。ここで言う目的は、「辞退防止」ではなく、「入社前のスキルアップ」や「社会人になるための意識の向上」などです。「どうして、いま、これをやる必要があるのか?」――その答えの腹落ちがないとダメ。ツール使用によって得られることを人事担当者が学生に明確に伝えていく必要があります。“やらされ感”があると、課題に臨む姿勢も消極的になります。たとえば、資格取得のための勉強にしても、単に「資格を取ってください」だと“やらされ感”がありますが、「その資格を取ると、あなたのキャリアに□□の好影響があります」と説明すれば納得度が高まります。「この資格を社員みんなが持っているので、あなたたちも…」と言われても、「どうして、入社前にその勉強を?」という疑問を学生は持ってしまうでしょう。

 すべての学生が同じモチベーションや就労意欲で「内定者フォロー」に向き合うわけでもない。

谷出 「卒業までにやることは卒論提出だけ」という場合などは、企業側の「内定者フォロー」の提案どおり、学生は「勉強しておこうかな…」となりますよね。しかし、大学での研究を最後までやり切りたい、体育会の部活を卒業まで続けたいという学生もいます。「内定者フォロー」の課題に学生がうまく向き合えないのなら、「なぜ、できないのか?」の確認が必要です。課題そのものをやりたくないのか、研究や部活動で忙しいからか…個々の事情があるはずなので、採用担当者はそれを把握することです。たとえば、内定(内々定)を出した学生に対し、「今後のスケジュールで決まっていることを教えてください」とあらかじめ聞き、スケジュールの擦り合わせをしたうえで、時期を見計らって「内定者フォロー」の課題を与えていく方法もあります。これは、内定者全員を一律に見るのではなく、個別対応になりますが、そうしたフレキシブルな対応がないと、学生は「一人ひとりのスケジュールを大切にするのではなく、内定者という集団でしか扱っていない」と思うでしょう。「内定者フォロー」のやりとりがあまりにもビジネスライクだと、「説明会では“アットホームな職場”と聞いたのにそうじゃない…(自分が思い描いた会社と違うので)入社を辞退します」となるわけです。

さまざまな「内定者フォロー」で、企業の採用担当者が必ず心がけたいこと「内定者フォロー」のツールはさまざまあるが、そのツールを使うことによって得られる目的を採用担当者が学生に伝えることが肝心だ。写真は「フレッシャーズ・コース2022」(ダイヤモンド社)。学生が毎月1巻ずつ(計6か月間分)向き合う形式で、継続した「内定者フォロー」が可能になっている