内定者の入社を採用の最終目的にしてはいけない
では、「この会社で働きたい」という気持ちを持って内定(内々定)を承諾した学生に対して、企業側はどのような姿勢で「内定者フォロー」を行うべきなのか?
谷出 学生には、「本当にこの会社で良いのか?」という、 “内定ブルー”が生じます。内定承諾書にハンコを押した後も「この決断で良かったのかな?」と迷い続けるのです。そうした学生に対し、企業側は懇親会や社内見学の実施など、さまざまな方法で「内定者フォロー」を行っていきます。フォローでは、その学生がどんな社会人になって、どのようなキャリアをつけたいのかを把握し、当人の思い描いている就労観が自社で実現できることをメッセージしていく必要があります。採用担当者が学生の考えを共有し、「それがやりたいのなら、こうするといいよ」といったキャリア面談的なことを行えば、学生の「内定ブルー」は次第になくなっていきます。
採用担当者は10月1日の内定式が終わると次年度の採用活動を業務の中心に据え、「内定者フォロー」は副次的な扱いとなることもある。そして、「待つ姿勢」のまま、「(内定辞退は)早め早めの連絡を心がけてほしい」といったふうに、学生の決断任せになってしまうケースが見受けられる*4 。
*4 紙媒体「息子・娘を入れたい会社2021」(ダイヤモンド社刊)における、筆者の企業取材より(「企業の採用担当者が匿名で語る“就活”のココだけの話」コーナー)。
谷出 人事の方 (採用担当者)に私がよく伝えるのは、「内定者の入社を最終目的にしないでください」ということです。「“採用が成功する”とはどういうことですか? 採用活動のゴールは何ですか?」と尋ねると、多くの採用担当者が「入社です」と答えます。「採用計画どおりの○人が内定を断わらずに4月1日に入社してくれれば成功です」と。「では、その翌日の4月2日に○人全員が辞めてもいいんですか?」と続けて聞くと、当然、「それはダメです」と。入社させることがゴールではなく、入社した者が職場に定着し、活躍することがゴールのはずです。活躍してもらうためには、企業は内定を出すタイミングを諮り、選考活動と「内定者フォロー」を通じて、新入社員に自社の方向性を理解してもらう必要があります。「内定を承諾させれば良い」という考えだけで、学生を丸め込んで入社させても、会社に入ったらすべてが見透かされてしまうわけで、「人事部が言っていたことと違う、こんなはずじゃなかった!」と辞めてしまう人も出てくるでしょう。結婚したのはいいけど、離婚しないために相手の機嫌を取り続けるのは無理なこと。離婚を恐れるのではなく、結婚生活を豊かにするために、お互いに何ができるかを同じ方向を見ながら進めていこう――それが「内定者フォロー」の意味です。