昼休みは外に出ず、電話番をしてください

 正午になり、A子が会社の玄関を出ようとしたところ、またもやC専務に呼び止められた。

「A子さん、どこへ行くの?」
「隣のファミレスでランチをしてきます。」

 するとC専務はあわてて右手を左右にパタパタと振った。

「ダメよ!すぐに席に戻って電話番をしてください。事務所に誰もいなくなると困るわ」
「えっ?でも昼休みなので……」

 A子の言葉をよそに、C専務は続けた。

「昼休みでも、いつお客様から電話がかかってくるか分からないでしょ?さあさあ、早く戻りなさい」

 その後A子が昼食を持参していないことを話すと、C専務は渋々コンビニへ買いに行くことを認めたが、「明日からは昼食持参で出勤するように」と言った。

 席に戻ったA子は、自席でコンビニ弁当を食べながら昼休み中も電話番を続けた。C専務の言葉通り、顧客から電話での問い合わせが2件入った。しかし、A子が応対した時間は10分足らず。あとは、テレビを見ながら半分ウトウトしていた。そして午後は電話番とC専務が持ってきた伝票などの書類整理をするくらいしか仕事はなく、あとはほとんどテレビを見たりスマホをいじったりして過ごした。

 朝の掃除の件といい、昼休みに社内で電話番をさせられる件といい、腑(ふ)に落ちなかったA子は、B社長に詳しい事情を聞こうと思ったが、B社長はほとんど出張中で連絡が取れない。そこで他の社員に尋ねてみたが、皆「B社長に聞いて」の一点張りだった。A子は仕方なくC専務の命令に従っていたが、朝は7時に出勤しなければならないし、仕事はヒマでもトイレ休憩と来客の応対以外は、昼休みを含めて9時間は社長室から一切離れることができない。やがてオリンピックが始まったがテレビを見る気分にはなれず、会社に対する不満を募らせていった。