役所は「ドリフ」から「ひょうきん族」に

宇佐美 私がやっていたことは、「官僚側で台本を書いて業界に提示する」といった旧来式の行政指導を放棄することに近かったので、古いタイプの官僚の方からは結構反感も買っていました。そういった意味で、行政は今、変化の過渡期にあるのではないかと思っています。

竹内 なるほど。宇佐美さんはネットワークをつくる構想力や行動力が凄かったですよね。我々エンジニアのコミュニティはもともと人付き合いが得意でない人も多い。そこはどうやっていたんですか?

宇佐美 はじめのうちは、面白い取り組みをしている研究者の方と1対1で会っていたんですけど、それでは相手の“旨味”があまりないことに気づきました。だから、1対1で一度話をして、研究内容や問題意識を理解したあとは、一気に数人を集めて共通のテーマについてみんなで話し合う場をつくることにしたんです。そのためにコーディネーターとしての技術を磨きました。

 そうすると、面白い人が芋づる式に集まってくるんですよ。大きなものでは30人くらい集まって、2日間寝ないで日本の将来を真剣に語り合う合宿を開いたりもしましたね。とにかく、「みんなで一緒に日本を良くしよう」という会合を一時期連続してやりました。

竹内 官僚としては珍しい切り口ですよね。そういうことを経産省の人たちは普段しないのですか?

宇佐美 官民一体と言われていた90年代以前はやっていたみたいですけど、最近はやっていません。事務手続きが増えて余裕がなくなってきたり、官僚が政治家に気を遣って萎縮するようになったりで、官民の壁が高くなりすぎていると思うんです。

 私自身について言えば、東日本大震災をきっかけに振り切りました。それ以前はあくまで官僚組織の中で、組織が決めた台本どおりに動いていたんですけど、震災を機に、役所に求められる本当の役割は何かを問い直しました。そのとき思ったのは、もう役所は民間の知恵には適わないってことです。だからといって役所が不要だと思いませんでしたし、むしろリーダーシップを持って次世代に希望を持てるビジョンを提示することも求められていると強く感じていました。

 それで、さんざん悩んだ末に、これからの役所には民間の知恵を思いっきり引き出す仕組みが必要になると思ったんです。面白い人がたくさん集まって、台本もなく、大きな目標は共有して、自由闊達に議論をできる環境を整えてみようと考えました。そうしたら予想もしない凄いものが生まれてくるんじゃないかって。

 当時はよく、「役所もドリフからひょうきん族に変わらなきゃいけない!」と言っていました。変化の激しい時代だから、台本を一生懸命つくり込むよりも、人が集まる楽しい場をつくって、その場のコラボレーションを重視する、っていうことなんだと思います。

第2回は、経済産業省の人事から始まり、エースと目されていた人材が外資系金融機関やコンサルタント会社へと流出している現実、そして、その大きな要因ともなった民主党政権の本質的問題まで議論が深まる。次回更新は、11月30日(金)を予定。


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◆宇佐美典也『30歳キャリア官僚が最後にどうしても伝えたいこと』

名門高校から東大、そして経済産業省へ。連日のように浴びせられる官僚批判によって、霞が関を去っていく優秀な官僚があとを絶たない。「三十路の官僚のブログ」で給料を公開して話題騒然の著者が、真実の官僚像を知ってもらうため、そして仕事への意欲を失う若手官僚を増やさないために、等身大の想いで問題提起を行なう。

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