技術以上に大切な人と人とのつながり

竹内 私も大学の世界ではまだ若いほうなので、役所側で斬新なプロジェクトを立ち上げてくれるからこそ、思い切った取り組みができるというところがあります。官民の組織を超えた人のつながりが重要だと感じますが、その意味で宇佐美さんが経産省を辞めてしまうと今後に不安を感じます。

宇佐美 自分で言うのも気が引けますが、私はちょっと新しいことにチャレンジし過ぎていた部分があったと思います(笑)。

竹内 電機分野の技術政策は、ここ数年で市場やアプリケーションを重視する方向にグッとせっかく舵を切ったので、できればこのまま変化し続けてほしいです。

宇佐美 半導体業界も、それを囲む産業政策も、1980年代の成功モデルに固執しすぎていたところがありましたよね。私としてはそれをなんとか見直そうと、海外メーカーとの提携を進めたり、コンピューティング分野のプロジェクトに力を入れたり、交通や農業やヘルスケア分野に最先端のIT技術を活用できないか検討したりと、ここ2、3年頑張ってきました。「自分でできることはやり尽した」と思って辞めてしまったので、後のことは後進に任せます。

竹内 そんな無責任なことを(笑)。私自身も大学に来てからは、伝統的な半導体の研究に留まることなく、新しい分野を切り拓こうとしてきました。官側で方向が変わる時はこちらもチャンスだと思っているので、このまま変わり続けてほしいですね。

宇佐美 やっぱり、お金を出す側だけが変わろうとしても、研究者側だけが変わろうとしてもダメだと思います。官民の垣根を越えて人ベースでお互いが協力して同期しないと、変化の流れにはつながらない。さらに言えば、従来のコミュニティにとらわれないで、異分野の企業や研究者とのコラボレーションも重要になってきますよね。

竹内 実際、半導体分野でも、データセンターや検索ソフトのように、これまで縁遠かった産業分野との連携が必要な研究が盛んになってきました。ただ、我々のような研究者はどうしても専門分野に閉じこもりがちで、違う分野でどんな研究が行われていて、そこにどんな研究者がいるのかということがあんまり見えないんです。まして、ベンチャー企業がどういうことをやっているのかなんてわかりません。

 そういうなかで、宇佐美さんは官僚として幅広い分野の企業や大学の研究者との交流がある立場にいましたから、「この人と会ってみたらどうか」とネットワークを広げる機会をつくってくれたんです。そういうことをやる人は、役所だけでなく大学や産業界にもあまりいなかったので、とても助かりました。

宇佐美 イノベーションにおける官僚の役割って、研究者のイマジネーションを広げる場をつくることにあると思っていたんです。だから、キーマン同士をマッチングするような機会を意識的につくっていました。

 具体的に何をしていたかというと、おもしろい研究者やベンチャー起業家を一部屋に集めて、「最近大雑把にこんなことを考えているんだけど、みなさんで議論して、このアイデアを具体化する面白いプロジェクトつくれるか検討してみてください」と伝えて、私はドアを閉めて去っていくということを繰り返していました。そんなことをする官僚はいなかったので、最初はみんなびっくりしていましたけど、慣れ始めると「宇佐美の缶詰方式」と呼ばれるようになりました(笑)。

竹内 一緒になる機会さえあれば、相手も似たようなタイプの人が多いから意外と話が弾んで発展するんですよね。宇佐美さんはぶっ飛んでいるように見えて、人と人をつなげるのがすごく上手なんです。人と人との関係というのは重要ですからね。スタンフォード大学に留学した時、激しい競争が繰り広げられているシリコンバレーであっても、技術以上に実は人間関係が一番重んじられていることを知りました。