ビジネスとフィクションの相思相愛
『スノウ・クラッシュ』から7年後の99年、スティーヴンスンはジェフ・ベゾスが設立した宇宙開発企業ブルーオリジンの唯一の社員になっている。というか、かねてから宇宙開発を夢見ていたベゾスが、スティーヴンスンにふとそんな思いを漏らしたところ「やるなら今でしょ」と背中を押されて同社を立ち上げたのだという(この経緯は「ワシントンポスト」紙の記者クリスチャン・ダベンポートが手掛けたノンフィクション『宇宙の覇者 ベゾスvsマスク』で明かされている)。
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そして、スティーヴンスンの現時点での邦訳最新作『七人のイヴ』は、月の爆発をきっかけに人類が大規模な地球脱出計画を始動させていく、という壮大な宇宙開発物語なのだが(これまたバラク・オバマやビル・ゲイツが絶賛する小説だ)、これは言うまでもなくブルーオリジンでの経験から着想されたものだ。SFをきっかけに新たなビジネスが生まれ、そのビジネスがSF的な発想を刺激し、さらなる未来像を生み出すエネルギーを供給する。イノベーションの最前線では、今もそんな創造的なサイクルが回っているのである。
ただし、最後に残念なことをお伝えしなくてはならない。2021年8月現在、『スノウ・クラッシュ』は(ついでに『ダイヤモンド・エイジ』も)絶版なのだ。しかし、『SF思考』出版を一つのきっかけに注目が高まっており、かつての版元、早川書房には復刊を望む声が続々と寄せられているといううわさを耳にする。そして、社内的に復刊が検討されているとか、いないとか……? 早川書房さん、やるなら今でしょ! ご英断をお願いします!
1段落目:『The Space Barons』<未邦訳>→『宇宙の覇者 ベゾスvsマスク』
(2021年9月6日13:00)