大手企業が直面する課題の一つが、いかに画期的なイノベーションを創出するかである。また優れた新規事業を生み出しても、会社全体の売り上げに貢献するほどに事業を成長させるのは至難の業といえる。企業はこうした課題にどう向き合うべきか。前編に続き、ハーバードビジネススクールのリンダ・ヒル教授が語った。(聞き手/作家・コンサルタント 佐藤智恵)
イノベーターのジレンマに
企業はどう立ち向かうか
佐藤 多くの日本の大手企業は、現在、「イノベーターのジレンマ」(優良企業が既存顧客のニーズを満たすためのイノベーションに注力した結果、破壊的な技術を持つ新興企業に負けてしまうこと)に直面していて、その解決法を模索しています。
ヒル教授は今年6月、ANAホールディングス(以下、ANA)の子会社「avatarin(アバターイン)株式会社」(以下、アバターイン)の事例を取り上げた教材を出版しましたが(詳しくは『ハーバードがコロナ禍のANAが下した「ある決断」に注目する理由』を参照)、「イノベーターのジレンマ」に対するANAの取り組みをどう評価しますか。
ヒル 「イノベーターのジレンマ」の解決法としてよく知られているのが、「両利きの経営」(既存事業の深化と新規事業の探索を同時に行う経営手法)です。多くの大企業は、既存事業の中で画期的なイノベーションを起こすのはもはや困難であることを実感しています。
そこで、既存事業部門とは全く別の新規事業開発部門を設けたり、子会社を作ったりすることによって、何とかして革新的なイノベーションを創出しようとしているのです。この「両利きの経営」はいま大企業で広く採用されている経営戦略です。