その出入り口から30メートルほど離れた車内から見ていると、日が落ちて暗くなったせいか、全くと言っていいほど対象者とそれ以外の人との見分けが私にはつきませんでした。

 レッドスターに、「もうちょっと近づきましょう」という提案をしようとした瞬間、「出た!」と言ってレッドスターはカメラを構えて撮影を開始しました。

 私もカメラを取り出し最大限にズームをして、出入り口から出てくる何十人もの人々の中から懸命に対象者を探しましたが、全く分かりませんでした。

 レッドスターはカメラをしまって車から降り、私が座っている運転席の窓に近づいて「撮影する意識は出てきたようだけど、撮れていないと全く意味がないから」と言い残して、対象者が向かったであろう方向に小走りで向かいました。

 私は声に出して「くそ厳しいな…でもすごいな!」とつぶやきました。

 20分くらいたった頃にレッドスターから「自宅方面」と指示メールがきたので、車を発車させました。

 その後、更なる指示の下、対象者の自宅の最寄り駅に向かいました。

一人で車で尾行することに
レッドスターにアピールするチャンス!

 対象者とレッドスターが到着する前に駅前のロータリーに到着して、対象者が出くるのを待っていると、対象者は駅前の喫煙所に立ち寄りました。ほどなくレッドスターも現れ、電話がかかってきて「トイレに行くから、その間対象者をマークして」と言ってすぐに切れました。

 車から降りて喫煙所付近に行くと、対象者はスマホを見ながらタバコを吸っていました。せっかちな性格なのかイライラしているのか、とても早吸いで、レッドスターが出てくる前に移動してしまうのでは? そうしたらとりあえず追ったほうがいいのか? 車はどうすれば? とハラハラしながら考えていると、対象者はたばこを吸い終え移動を開始しました。悪い予感が的中しましたが、ここは行くしかないと思い尾行を開始しました。

 と言っても、対象者は帰宅するだけだろうし、「レッドスターがトイレから出てきたら、代わってもらえばいい」と考えると、リラックスして対象者を観察し尾行することができました。

 尾行自体は探偵学校で実地の訓練も経験しており、難易度を上げようと難しい行動を取る教官を追い切った経験もあるので、正直不安はありませんでした。突然の単独尾行でしたが、対象者は周りを気にしている挙動はなかったので、どんどん冷静になり、単独で帰宅するまで追い切ってやろう! レッドスターに使える人間であることをアピールしよう! という功名心さえ芽生えていました。