駅前ロータリーでレッドスターと合流し、ここまでの流れを震える声で説明しました。レッドスターは表情を変えず聞き終えて「車を取ってくる。ここで待ってて」と言って鍵を受け取り、車へ向かいました。

 数分後にレッドスターが車で戻ってきて、後部座席へ乗るように促されました。私が乗り込むとレッドスターは「もう対象者と車はいなかった、状況を見てないから分からないけど、自分が尾行している間は特に警戒行動はなかった。別に責めるわけじゃないけど、明らかに対象者に尾行者としてロックオンされたね。まぁ帰宅したら今日の行動を振り返ってみて。どこかに違和感のポイントがあるはずだから。まぁ対象者はこのまま帰宅するでしょ、とりあえず依頼者に連絡して、帰宅したという返事があれば今日は終了だね」と淡々とした口調で話しました。

 私は心が全く落ち着きませんでしたが、なんとか冷静になろうとたばこを吸いながら、レッドスターの言葉一つ一つをかみ締めました。

 その数分後、依頼者からのメールを確認したレッドスターは「依頼者は対象者を迎えに行っていないんだって」。最初、レッドスターが何を言っているのか分かりませんでした。数秒後、私は「え? 確かに対象者の車のナンバーでしたよ」と言うと、レッドスターは「恐らく運転席に乗っていたのが浮気相手なんだろうね」と言いました。そこで全てが理解できました。

 対象者に顔がバレた私は参加できませんでしたが、レッドスターの後々の調査で、対象者の駐車場で張り込んでいると対象者の車に依頼者ではない女性が乗り込み、対象者を迎えに行きラブホテルへ入って行く様子が確認されたそうです。

クビ、無報酬?
レッドスターの思わぬ言葉

 今回の調査では正直結果が残せず、あろうことか対象者にバレてしまった私は、無報酬はもちろんのことクビも覚悟していましたが、レッドスターはキッチリと報酬を払ってくれました。そして1週間後には別の調査案件に誘ってくれました。

 その現場に向かう前にレッドスターと合流した直後、私はレッドスターに前回の現場での失態をわびました。そして、なぜ首にならなかったのかを尋ねたところ、レッドスターは「失敗して慌てたけど、パニックにならなかったでしょ。今まで見てきた大概の人はパニックになってたよ。でも君は状況もしっかり説明できていたし、問題点も分かっているようだったし。俺の今回の現場の誘いに即答したでしょ。まぁ足りないのは経験だけだから」と淡々と言いました。

 この言葉で、私は今でも探偵を続けていられるような気がします。

『私の初現場』『苦い思い出』。点と点が線になる探偵トークでした。あなたの隣に詐欺師がいます。

※本稿は実際の事例に基づいて構成していますが、プライバシー保護のため個人名は全て仮名とし、一部を脚色しています。