このままだと中国は
バブル崩壊後の日本のようになる

 経済成長によって、インフラ整備需要は飽和する。工業化の初期段階では、高速道路の建設によって物流が効率化され、経済全体で生産性は上がる。しかし、高速道路網の整備が一巡した状況下で追加の道路を建設しても、生産性は高まらない。そのため、社会全体の資本効率性は低下する。

 実例が1990年代のわが国経済だ。バブル崩壊後のわが国は、雇用を守るために公共事業を積み増した。しかし、社会インフラ整備が一巡していたため資本の効率性は低下し、投資は波及需要を生まなかった。近年の中国のGDP成長率の鈍化は、インフラ投資による成長が限界を迎えたことを示している。景気対策としてのインフラ投資が増えるにつれて中国の債務問題は深刻化している。中国経済は、不良債権問題が深刻化した97年から2002年頃のわが国経済のような状況に向かいつつある。

 中国経済の成長率の鈍化は、貧富の差を拡大させている。The World Inequality Databaseによると、15年時点で中国の所得の41.7%を上位10%が占め、下位50%が受け取る所得は全体の14.4%だった。中国のジニ係数は0.6を超えると指摘する中国経済の専門家もいる。(ジニ係数は0から1までで表され、1に近づくほど貧富の差が激しくなる)

 貧富の差の拡大は、為政者の求心力を低下させる。つまり、貧富の差の拡大は共産党政権が体制を維持する脅威となる。所得格差を是正しなければならないが、習近平国家主席にとって、富裕層の一つである共産党幹部に手を付けることはできない。それは共産党内部から同氏への批判が強まる原因になる。

 そのため、習政権は、アリババやテンセント、さらには滴滴出行(ディディチューシン)などのIT先端企業への規制強化や資金調達の道を閉ざし、もう一つの富裕層である民間企業の創業経営者をたたかざるを得なくなっている。習氏が宣言した「共同富裕」のコンセプトは、慈善事業による寄付を重視する。それは、多くの富を得てきた民間企業の創業経営者から他の層への「強制的な富の移転」を示唆する。