SF×ミステリのエキサイティングな融合
話は変わるが、今、ミステリ界隈で盛り上がっている「特殊設定ミステリ」ブームをご存じだろうか。『このミステリーがすごい!2018年版』で第1位を獲得した今村昌弘の『屍人荘の殺人』(2017年)のヒットなどから一般の注目度が上がってきたもので、簡単にいえば、現実と懸け離れた「特殊設定」を小説世界に持ち込み、設定がもたらす制限下で謎を解くタイプのミステリを指す。アシモフは、このブーム関連でもよく名前が挙がる作家である。
というのも、『はだかの太陽』や『鋼鉄都市』の世界では、先ほど触れた「ロボット工学三原則」が当然のものとなっている。そして、どちらの作品でも、この三原則の盲点を突くことで、あっと驚く結末が示される。人間とロボットがバディ(相棒)を組んで殺人事件に立ち向かうという展開も含めて、当時の現実からは離れた舞台設定の下で謎が解かれていくため、アシモフは特殊設定ミステリの先駆者の一人として高く評価されているのだ。
『SF思考』では、SF的な物語を考えるための思考フレームとして「三段階の未来予測」を紹介した。それは、(1)予想外の未来社会を想像し、(2)そこに存在する課題を想像し、(3)その解決策を想像する、という三つのステップで構成される。「特殊設定ミステリー」の枠組みはこれと親和性が高い。三段階の未来予測の下で事件解決を描けばエキサイティングな文学になるし、ビジネスに活用すればワクワクする未来のプロトタイプになる。アシモフのロボット小説は、それを分かりやすく見せてくれる好例なのである。