人類のより良い未来を思考せよ!

未来を作り出す驚きの思考!――アイザック・アシモフPhoto:ロイター/アフロ

 これまで言及してきた「ロボットもの」と並ぶアシモフの人気シリーズが、『銀河帝国興亡史(ファウンデーション)』の小説群だ。宇宙開発がすさまじく進んだ未来。人類は約2500万もの星々に分散して暮らしており、銀河帝国に統治されている。しかし、帝国には滅亡の危機が迫っていた……。ここで重要な役割を果たす登場人物が、心理歴史学者のハリ・セルダンである。

「心理歴史学」とはへんてこな言葉だが、これもアシモフの造語だ。数学的手法で未来予測を可能にしたという架空の学問で、うまく使えば、戦争だって未然に防げる。壮大なスケールで展開されるこの物語は、学問によって世界平和を実現できるか、という思考実験としても読めるのだ。実際、読み進めるにつれ、進化し続けるテクノロジーにさまざまな学問や政治を掛け合わせていけば、今はまだ終息しそうにないように思える課題にもいつか解決策が見つかるのではないかという謎の勇気が湧いてくる。

 というわけで、この物語も各分野の著名人を魅了した。テスラの共同創業者にして宇宙開発企業「スペースX」のCEOとして宇宙開発を先導するイーロン・マスクしかり、台湾のデジタル担当大臣として改革を強力に推進するオードリー・タンしかりだ。2008年にノーベル経済学賞を受賞したポール・クルーグマンも、ハリ・セルダンに憧れて経済学を志したといい、『ファウンデーション』シリーズを下敷きに「恒星間貿易の理論」というパロディー論文まで書いているSF思考の使い手だ。

 アシモフは映像化作品がそれほど多くはないのだが、ここで一つ朗報がある。今年9月、Apple TVでオリジナルドラマ「ファウンデーション」の配信がスタートするのだ。その豊饒な世界を、まずは映像で楽しむのも一興ではないだろうか。

 ただ、アシモフには生前、女性に対するセクシュアルハラスメントがしばしば指摘されていた。また、作品内での女性の描き方にも、手放しで称賛できるものではないところがある(もちろん少し古い時代の作品であることは考慮しないといけないが)。アシモフを評価する際は、そのような問題点も併せて認識しておくべきだろう。