B部長は1週間後、甲社にやって来たD社労士に、A社長が社員全員に出した業務命令の件について詳細を説明し、尋ねた。

「A社長は常々『社内で新型コロナ感染をしないよう、社員の健康を守ることが会社の義務だ』と言ってますが、これは法律で決まっているんですか?」

「『使用者の安全配慮義務』のことですね」

「それはどういう意味ですか?」

 D社労士は次のように説明した。

<使用者の安全配慮義務とは>
(1)会社(甲社)は社員の健康等に危害が生じないよう、安全な就労環境を提供する義務がありこのことは労働安全衛生法および労働契約法第5条で定められている。
(2)甲社は社員に安全な就労環境を提供するために、いろいろな方法で対処することになるが、その中には企業防衛の観点から、社内で新型コロナ感染症の拡大防止対策を行うことも含まれる。

 B部長は続けて質問した。

「当社では新型コロナ感染症の予防対策として、いろんなことを行っていますが、その中にワクチンの予防接種を強制することも含まれるのですか?」

<新型コロナワクチンの接種について>
(1)予防接種法によると、国民が新型コロナワクチンの予防接種を受けることは努力義務とされており、強制ではない(厚生労働省の新型コロナワクチン接種に関するサイトでも明示あり)。
(2)さらに厚生労働省では企業に対して、「職場や周りの方などに接種を強制したり、接種を受けていない人に差別的な扱いをすることのないよう」要請をしている。

「では、業務命令として会社がワクチンの接種を強制して、従わない社員をクビにすることはできるのですか?」