西洋医学は「木を見て森を見ず」

Q:コロナによる医学、社会への影響をどのようにとらえていますか。

 100年前、スペイン風邪で感染医学が進歩したように、コロナで抗体カクテル療法など新しい治療法が出てさらに医学が進歩しました。歴史は繰り返したようにみえます。過去の感染症も、はやり始め、拡大、感染爆発を経て、収束するまで2~3年かかったのと同様に、コロナとの闘いも相当時間がかかるでしょう。

 感染症は、医学の進歩とともに社会変容をもたらします。スペイン風邪は第1次世界大戦を終わらせました。コロナも今の労働形態、生活スタイル、社会の問題を浮き彫りにし、変化をもたらしています。このような大局的な観点からコロナを受け入れ、向き合うことも必要なのではないでしょうか。

 人口も経済も縮小する中、社会福祉に費やす財源も無限ではなく、コロナで国が負債を背負いすぎましたので、これからいかに医療、福祉と経済の折り合いをつけるか。これはコロナ対策を通じた一貫したテーマです。困っている患者さんを救うという目の前の福祉活動に専念しながら、何が正解なのか常に大局的に考えたいと思います。

Q:コロナが浮き彫りにした、今の医学の在り方をいかに考えますか。

 私は、今の臨床医学の在り方に若干疑問を抱いているのは事実です。西洋科学は何に対しても一に分析、二に分析で、限りなく細分化されている傾向にあるのではないでしょうか。

 細分化のおかげで医学は進化し、日本人の寿命も延びました。しかし木を見て森を見ずです。人間の体は1カ所治せば良いというものでなく、全体のバランスの中でどうあるべきか患者の立場で治療を選択すべきだと思います。

 特に専門医は、担当の患部が治ればそれで良いのですが、患者から見ると他に影響することが多々あり、結局医者漬け、薬漬けになる傾向があります。せっかく平均寿命が延びても、健康寿命が短くなっていくように思います。

 超高齢少子多死社会は、現在の社会保障制度を崩壊させつつあります。国民が健康のありがたみ、国民皆保険制度の恩恵を享受している今のうちに、構造改革が必要です。さもなければ、健康寿命と平均寿命は乖離していくでしょう。コロナはこの問題を人類に提起するかのように、ここぞとばかりに変異を続けているかのようにみえます。

 コロナ現場の対応で獅子奮迅の我々医療者にエールを送っていただくことは大変励みになります。しかし、背中を押していただきながら自問自答します。我々こそ、もっと悩める患者さんの背中を押さなければいけないのではないか。医療も医療機関も高度化したが、まさに副反応として全体を見ないようになったのではないか。真に患者中心の医療政策が必要ではないかと思います。

(監修/MYメディカルクリニック 院長 笹倉 渉)

◎笹倉 渉(ささくら・わたる)
MYメディカルクリニック(東京・渋谷)院長。日本麻酔科学会 麻酔科認定医・麻酔科専門医。日本医師会認定産業医。インフェクションコントロールドクター(感染症や感染制御、院内感染対策を専門に取り扱う医師)。藤田保健衛生大学(現藤田医科大学)医学部卒。公立昭和病院初期臨床研修医、東京慈恵会医科大学附属病院麻酔科助教、公益社団法人北部地区医師会病院麻酔科科長を歴任、麻酔科医として救急の第一線で経験を積んだ後、2016年9月MYメディカルクリニック院長に就任。