10人に1人といわれる左利き。「頭がよさそう」「器用」「絵が上手」……。左利きには、なぜかいろんなイメージがつきまといます。なぜそう言われるのか、実際はどうなのか、これまで明確な答えはありませんでした。『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』(ダイヤモンド社刊)では、数多くの脳を診断した世界で最初の脳内科医で、自身も左利きの加藤俊徳氏が、脳科学の視点からその才能のすべてを解き明かします。左利きにとっては、これまで知らなかった自分を知る1冊に、右利きにとっては身近な左利きのトリセツに。本記事では本書より一部を特別に公開します。

「左利きは天性のアイデア脳」脳内科医が断言する新事実Photo: Adobe Stock

「注意深く観察する力」がアイデアの畑を耕す

 脳科学の世界では「ミラードローイング」をすると、視覚系脳番地の他、前頭葉にある運動系、思考系、伝達系の脳番地が特に刺激されることがわかっています。(関連記事:最新脳科学でついに決着!「左利きは天才」なのか?

「ミラードローイング」とは、鏡に映って反転した像を、鏡を見ながら描くことを言います。左利きは右利きの行動を見ながら、毎日のようにミラードローイングをしているようなものです。

 特に幼い頃は、右利きの箸の持ち方を反転させてイメージしたり、右利きのペンの使い方を、左手でやったらどうなるかを考えるなど、指の角度や動かし方まで、細部にわたり観察しなければならない状況に置かれているため、必然的に注意深く見る力が身についているのです。

 私は、こうした毎日の積み重ねが、左利きの持つ新たな発想のタネになっていると考えます。

 多くの人は「新しいアイデア」は、どこからか降ってくるものだと考えています。しかし私は、アイデアとは「畑にまいた無数のタネから発芽したもの」というたとえがピッタリだと思うのです。芽が出るか出ないかわからないけれど、ものごとを細部にわたり観察し、考えることを繰り返す、そうしてアイデアの畑を耕した結果、栄養をたっぷりと補給したいくつかのタネが発芽します。

無意識に「足りないものを補完」している

 左利きは、他にも無意識のうちに「アイデアが生まれやすい土壌を作る」行動をとっていますそれが、「足りないものを補完する」ことです。

 2020年に、私は世界で初めての「ラジオ聴取と脳の成長の関係」を調べる実験を行いました。1日2時間以上、1ヵ月にわたりラジオを聴き続けてもらった結果、ラジオを聴くことは左脳の言語記憶を刺激するだけではなく、視覚的な想像力も呼び起こし、右脳の記憶系脳番地も成長させていたことがわかりました。

 これはまさに、音声としての言葉を聴覚系脳番地が認識したあと、視覚系が足りないイメージを補完して記憶していたということです。

 左利きは、このような「補完能力」を日々、鍛えています

「今、あるのはこういうこと」と現状を認識し、細かく観察することによって、左利きである自分に足りないことが見えてきますそうして、何をプラスすればいいのかを常に考えるのは、アイデアを生み出す脳の使い方そのものなのです。

(本原稿は『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』から抜粋、編集したものです。本書では、脳科学的にみた左利きのすごい才能を多数ご紹介しています)

[著者]加藤俊徳(かとう・としのり)
左利きの脳内科医、医学博士。加藤プラチナクリニック院長。株式会社脳の学校代表。昭和大学客員教授。
発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家。脳番地トレーニングの提唱者。
14歳のときに「脳を鍛える方法」を求めて医学部への進学を決意。1991年、現在、世界700ヵ所以上の施設で使われる脳活動計測fNIRS(エフニルス)法を発見。1995年から2001年まで米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI脳画像の研究に従事。ADHD(注意欠陥多動性障害)、コミュニケーション障害など発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。帰国後は、独自開発した加藤式MRI脳画像診断法を用いて、子どもから超高齢者まで1万人以上を診断、治療を行う。「脳番地」「脳習慣」「脳貯金」など多数の造語を生み出す。InterFM 897「脳活性ラジオ Dr.加藤 脳の学校」のパーソナリティーを務め、著書には、『脳の強化書』(あさ出版)、『部屋も頭もスッキリする!片づけ脳』(自由国民社)、『脳とココロのしくみ入門』(朝日新聞出版)、『ADHDコンプレックスのための“脳番地トレーニング”』(大和出版)、『大人の発達障害』(白秋社)など多数。
・加藤プラチナクリニック公式サイト https://www.nobanchi.com
・脳の学校公式サイト https://www.nonogakko.com