富士フイルム富山化学の制御できぬ”国策薬”、コロナ治療薬候補「アビガン」Photo:123RF

 一度走り出してしまった列車は、大事故を起こすまで止まることはできないのか。

 新型コロナウイルス感染拡大の不安が日本中を襲った20年2月、一度は忘れ去られていた抗ウイルス薬「アビガン」が、突如として脚光を浴びた。安倍晋三首相(当時)が、会見で有望な候補薬としてアビガンを名指ししたのだ。胎児に影響を及ぼす「催奇形性」のリスクがあるために、これまで腫れもの扱いされてきた薬にもかかわらず、である。

 その後は、国を挙げてアビガンへの期待を膨らませるばかり。承認前にもかかわらず、増産や備蓄に100億円規模の予算が投入される異例の事態となった。厚労省は「なぜアビガンを早く承認しないのか」という世間のサンドバッグと化した。

 あれから1年半。アビガンは未だに適応追加できるだけの結果が出せず、観察研究も治験も継続中だ。きちんと承認を得たワクチンや治療薬が登場するなかで、一部の熱狂的な“アビガン支持者”を除き、世間の関心も薄れつつある。

 それでも、列車は走り続けた。アビガンに付けられた予算は粛々と執行され、研究も依然として進められていた。そんななか、ついに恐れていた出来事が発生する。妊娠していた可能性のある患者に、アビガンを投与してしまったのだ。