国立競技場だけじゃない
身近に溶け込む「隈研吾ワークス」の数々

 では、隈研吾の「負ける建築」は一体どこに溶け込んでいるのだろうか?続いては、日本各地に数多く存在する氏の作品の中でも「身近さ」を感じさせるモノを中心に代表作を紹介していく。普段「なんとなくいいな」と感じていた場所が、実は隈研吾の作品だったことに驚く方も少なくないだろう。

スターバックスリザーブ ロースタリー 東京(東京・中目黒)
 渋谷・恵比寿・六本木といった都心部より少し離れた場所に位置する中目黒は、緑の多さや瀟洒な雰囲気が人気のエリアだ。その一角に2019年誕生した「スターバックス リザーブ ロースタリー 東京」は、世界中に拠点を構えるスターバックスの新たなビジネスモデルの拠点として設計された。4階建ての屋内ではフロア別に異なるサービスが提供され、シアトル・上海・ミラノ・ニューヨークに続く第5の店舗として人気を博している。

「都市との連続性の獲得」をテーマに、縁側上のテラスや立体的なプラントボックスを配することで落ち着きと先進性をブレンド。住宅街の中でも極端に異彩を放つことなく、土地に溶け込む新たなランドマークとして多くの人々に受容されているようだ。

明治神宮ミュージアム(東京)
 原宿から程近い明治神宮は、首都圏エリアの中で長年人々の安息の地として愛され続けている場所だろう。そんな日本を代表する神社の中ほどに位置する博物館も、実は隈研吾が手掛けた作品である。

 主役はあくまでも明治神宮を取り巻く森林とし、できる限り軒の高さを抑えた設計や屋根・外壁の分節などを行うことで、見事に景観と融和する建物として仕上げられている。無意識のうちに通り過ぎていた場所こそが、隈氏が目指す「消える建築」そのものなのかもしれない。

朝日放送本社(大阪)
 大阪の中心を流れる堂島川のほとりに鎮座する朝日放送の本社ビルも、隈研吾の作品だ。タワーマンションやオフィスビルが林立する街の中で、ソリッドな雰囲気をそのままに「公共的な広場」を創出することがコンセプトとされ、一般開放フロアとなる3階「リバーデッキ」などが新たな街の景勝地、あるいは通り道としてさまざまな人々が行き交う仕掛けが凝らされている。

まちの駅ゆすはら(高知)
「隈研吾の仕事」を全身で感じたければ、高知県に足を運ぶのが最適解となるだろう。特に梼原(ゆすはら)町は氏の作風を大きく転換するきっかけとなった芝居小屋「ゆすはら座」復元作業以来長い交流を続けており、町内の至る所で隈研吾ならではの木造建築を堪能できる。

 中でも2010年に発表された「まちの駅ゆすはら」は、町営ホテルでありながら15の宿泊施設が並び立つ巨大なアトリウムを内包しており、郷土食材のマルシェとしても機能している。かやぶき住宅にインスピレーションを受けて建造された同施設は、外壁にブロック状のカヤを配することで懐かしさとポストモダニズムを両立することに成功している。