「ワインツーリズム」を日本酒で
新政酒造8代目の挑戦

入山 プロセスエコノミーの手法で物語を一番うまく使っているのは、ワイン産地として名高い米国・ナパバレーだと思っています。これ、本に書いてありましたっけ?

尾原 いや、書いてないです。ぜひ知りたいです。

入山 ナパバレーには大量のブドウがあって、シャトーがあります。ブドウ畑で、「これがみなさんのワインになるんですよ」と言ってワインを飲んでもらうと、みんな一気にファンになるんですよ。

 ワインはプロセスを見せるのが一番重要で、ナパバレーがすごいのは物語の強さなんですよね。

尾原 確かに。サンフランシスコから近いので、そのまま見に行って物語の一部に組み込まれてしまいますね。

入山 完全にプロセスエコノミーですよね。

 それを日本でお酒の分野でやろうとしているのが、秋田の「新政(あらまさ)酒造」です。

 新政酒造に「No.6(ナンバーシックス)」という、日本中どこを探しても手に入らない日本酒があるんです。

尾原 たしか10万円ぐらいで取引されていますよね。

入山 そうですね。焼酎なら「森伊蔵」、日本酒なら新政酒造の「No.6」と言われています。

 僕は以前、新政酒造の取材をしたことがあるんです。

 新政酒造は、佐藤(祐輔)くんという最高におもしろい経営者がやっています。実家が新政酒造をやっていたので、そのあと酒造を継ぎました。

 彼は大成功していて、今取り組まれているのが「日本酒ツーリズム」なんです。日本酒ってツーリズムがないんですよ。

尾原 そっか、ないんですね。

入山 佐藤くんは地元の田んぼを買って、田植えからやると言っています。

 新政酒造は木桶を使って日本酒を作っています。日本で木桶を使っている酒蔵はごくわずかです。いずれは秋田の木を使って木桶を作り、お子さんに田植えをさせて、これがやがて新政のお酒になるんだよ……みたいなことをやりたいと。

 数年前に田んぼを見せてもらった時に、「僕は、いつかここに日本酒のテーマパークを作りたい」と言っていました。

 これ、すごいなと思って。彼はナパバレーの「ワインツーリズム」を日本酒でやろうとしているのかと。

尾原 まさにそうですね。人って物を味わう時に、味だけじゃなくて裏側にある思いを味わうし、そこに自分の物語も乗せますからね。

入山 当時はいろいろ考えましたが、この本を読むと全部言語化されていました。