西陣織の持つ伝統的な力が、
海外に打って出るときのパワーになる
秋元 メインストリームから外れている人達が、自分達のためにつくり始めたカルチャーみたいなものが、時代と共に賛同を得て、それが中心になって時代を代表するものになっていく。これって、どちらかというと西洋的な文化のダイナミズムだよね。僕自身も現代アートに携わっているから、人がやってないことへ挑戦していくことにクリエイティブの意味があると感じているんだけど、でも、細尾さんの家業は違うよね。西陣織は伝統的だし、相当日本的な仕組みだと思いますよ。自分を捨てて、まずは家業として伝わってきたことを守っていくという世界でしょ。そのへんのバランスは、どうやって取ったの?
細尾 そうですね。西陣の家に生まれ育って、当たり前にまわりに着物があってという環境でした。長く続く伝統って、妙な引力とか重力があるじゃないですか。メインストリームもそうかもしれないですけど。「これはこういうもんだ」と、どんどん固定観念にとらわれていくといいますか。
秋元 はじめは、家業が嫌で仕方がなかった?
細尾 はい。はじめは、家業を継ぐ意思は全然なくて。ここに入ると身動きとれなくなりそうだ、と本能的に感じていたのです。
秋元 できるだけ遠く、引力が届かないとこに行ってやれみたいな。
細尾 そうなんです。ただ今から思うと、カウンターカルチャーって、メインストリームが持つ引力をテコの原理のように上手くカウンターパンチに使う世界じゃないですか。そこは、なんか面白そうだな、と。
秋元 ある種、自分が生まれ育ってきた家と、自分との関係を代弁するものでもあったのかもしれないね。アバンギャルド(前衛)なものに身を置くことで、自分自身がホッとするというところもあったのかもしれないよね。
細尾 はい、あったと思います。西陣という脈々と受け継がれてきたものが持つ引力を使って海外に打って出るというのは、私個人では、絶対に持てないパワーを使わせてもらえるんだと気づいたときに、家業に「戻りたい」と思いました。