フロー型からストック型への
切り替えがうまい人がお金持ちになれる
企業の例で考えてみましょう。たとえば、アップルのiPhoneやiPadを想像してみてください。これらのように、今まで市場になかった魅力的な商品が世に出ると、消費者はこぞって買おうとします。
魅力的な新商品が世に出たとき、「顧客」は企業にとって「フロー型」の動き(顧客の絶対数が増える)をするようになります。その結果、企業は商品の生産能力や供給不足を気にし、ブランディングやマーケティングより、商品供給の強化をおこないます。なぜなら、魅力的な新商品はすぐに売り切れ、供給を増やさないと売上計画を達成することができないからです。
しかし、「液晶テレビ」のように、爆発的なヒットの後、すでに日本中の家庭に行き渡ってしまった場合、顧客の「フロー数」はもはや増加しません。その結果、売上成長はとまり、企業は逆に生産能力を弱めたり、生産設備を変動費化(アウトソーシング)させる必要がでてきます。
そして、企業は商品ラインを細分化し、多様な顧客の指向に合わせたさまざまな「派生商品」や「機能特化商品」を開発、丹念なマーケティングをおこないながら競合品との差別化を進め、市場の隙間や特定用途のための開発をしていくようになります。
商品の寿命(ライフサイクル)が近づいてくると、企業は顧客の「数」の増化でなく、顧客一人当たりの購入頻度を上げるため、顧客を囲い込み、優良顧客だけを特別に扱ったり、あるいは、同一顧客に異なる商品を併売したりすることで売上を上げていきます。これを顧客の「ストック化」と呼び、同じ顧客に繰り返し商品を購入してもらうことを顧客の「リテンション」(維持、確保という意味)と呼びます。
市場が成熟し、世の中に模倣品や類似品が溢れると、「年収」よりも「貯蓄」に目を向け、異なる戦略で競争相手と戦う必要がでてくるのです。しかし、多くの企業がこのことに気づいておらず、いまだに「フローの増加」という幻想から抜けきれていません。結果的に、単に広告宣伝を増やすことで擬似的なフローを高め、その場しのぎの売上を稼ごうとしています。私は、拙著『ブランドで競争する技術』でこうした状況に警鐘を鳴らしました。
再開した本連載では、多くの人がなぜ、ビジネスのフロー化の幻想から抜けきれないのか、また、ストック化させるためにはどうしたよいかということについてみなさんと一緒に考えていきたいと思います。
(次回は、11月29日更新です)
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