発達障害の人ほど「リベンジ夜ふかし」をやめられないメカニズム

有意義に過ごせなかった日中の不満足感を取り戻そうとつい夜ふかししてしまう、いわゆる「リベンジ夜ふかし」に悩んでいる、という人も多いのではないだろうか。発達障害専門の精神科医・本田秀夫氏は、「発達障害の特性がある人ほどこのパターンに陥りがちだ」と語る。「やるべきこと」が増えたストレスを発散するために「やりたいこと」のさらなる上積みが必要になるため、睡眠時間を削らざるを得ないのだそうだ。
今回は、本田氏が精神科医として30年以上のキャリアを通して見つめてきた「生きづらい人が自分らしくラクに生きられる方法」についてまとめた書籍、『「しなくていいこと」を決めると、人生が一気にラクになる』の発売を記念し、発達の特性がある人が「リベンジ夜ふかし」をしてしまうメカニズムとその対処法について聞いた。(取材・構成/川代紗生、撮影/疋田千里)

周りに合わせようとすることで発生する「生きづらさ」

──本田先生は、「ADHD」や「自閉スペクトラム症」をはじめとする「発達障害」がある人の相談をたくさん受けてこられたんですよね。

本田秀夫(以下、本田):ええ。大学卒業後は精神科医として働いていましたが、1991年からは「発達障害」がある方を中心に診させていただいています。

 ただ、今回の本に関しては、「発達障害」とはっきり診断されている人というよりも、その特性はあるけれど診断されずに「グレーゾーン」と言われるような方や、「なぜかわからないけれど生きづらい」と思っておられる方などにこそ読んでほしいと思っています。

──「発達障害グレーゾーン」の方にこそ、この本を読んでいただきたい理由とは何でしょうか?

本田:生活や仕事に支障をきたすような「障害」まではいかなくとも、発達障害の特性を持っていることによって「生きづらさ」を感じている人がすごく多いな、という印象があって。

 たとえば、「気をつけているのに仕事でミスが多い」とか、「休日でも不安なことが思い浮かんで、気が休まらない」とかね。

──そういえば、私も仕事で悩みが多かった時期、発達障害の検査を受けたことがありました。結局はっきりと「ADHD」や「自閉スペクトラム症」であるという診断は受けなかったのですが、たしかに、お医者さんからは「これこれこういう発達障害の傾向はあるかもしれない」と教えていただいて。

本田:ああ、そうでしたか。こういう悩みをお持ちの方、多いんですよね。

 一生懸命努力しても工夫しても、周りの人と同じようにうまくできない。

「自分もちゃんとしなくちゃ」「周りに迷惑をかけないようにしなくちゃ」と思うけれど、そう思えば思うほど、自分がダメな存在であるかのように思えてきて、ますますつらくなる、という。

 じつは、発達障害の特性がある人の生きづらさは、特性自体が原因というよりも、周りに合わせようとすることで起こる「二次障害」で発生するケースが多いんです。

 つまり、「周りの人がちゃんとできていること」を自分もできるようにならなければならないと思い込み、自分のやりたいことがわからなくなる。「やるべきこと」に縛られすぎてしまうんですよね。

発達障害の人ほど「リベンジ夜ふかし」をやめられないメカニズム本田秀夫(ほんだ・ひでお)
信州大学医学部子どものこころの発達医学教室教授・同附属病院子どものこころ診療部部長
特定非営利活動法人ネスト・ジャパン代表理事 精神科医。医学博士
1988年、東京大学医学部医学科を卒業。東京大学医学部附属病院、国立精神・神経センター武蔵病院を経て、横浜市総合リハビリテーションセンターで20年にわたり発達障害の臨床と研究に従事。2011年、山梨県立こころの発達総合支援センターの初代所長に就任。2014年、信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部部長。2018年より、同子どものこころの発達医学教室教授。発達障害に関する学術論文多数。英国で発行されている自閉症の学術専門誌『Autism』の編集委員。日本自閉症スペクトラム学会会長、日本児童青年精神医学会理事、日本自閉症協会理事。2019年、『プロフェッショナル 仕事の流儀』(NHK)に出演し、話題に。著書に『「しなくていいこと」を決めると、人生が一気にラクになる』(ダイヤモンド社)、『自閉症スペクトラム 10人に1人が抱える「生きづらさ」の正体』『発達障害 生きづらさを抱える少数派の「種族」たち』(ともにSBクリエイティブ)、共著に『最新図解 女性の発達障害サポートブック』(ナツメ社)などがある。