京都の伝統工芸・西陣織のテキスタイルがディオール、シャネル、エルメス、カルティエなど世界の一流ブランドの内装などに使われているのをご存じでしょうか。日本の伝統工芸の殻を破り、いち早く海外マーケット開拓に成功した先駆者。それが西陣織の老舗「細尾」12代目経営者の細尾真孝氏です。ハーバードのケーススタディーとしても取り上げられるなど、いま世界から注目を集めている異色経営者、細尾氏の初の著書『日本の美意識で世界初に挑む』(ダイヤモンド社)が出版されました。対談形式でお届けしている本連載の特別編。前回に続き、お相手は独立研究者・著作家・パブリックスピーカーの山口周さんです(2021年10月5日にパークハイアット京都で行われた「GO ON(ゴオン)」主催の「CRAFTS NIGHT」での対談をもとに構成)。新しい価値を生み出すために必要な、創造的なものづくりに欠かせない姿勢とは? 好評のバックナンバーはこちらからどうぞ(構成/書籍編集局・高野倉俊勝、撮影/伊藤信)。

ものづくりに携わる人におすすめしたい、常に成長し続けるために必要なこととは山口周氏と細尾真孝氏

ピーター・マリノとの仕事は、
音楽でいうセッションみたいな感覚だった(細尾)

山口 周(以下、山口) これは、本の中には全然書かれてないことですけれども、前回話したピーター・マリノさんからのオファーというのは、つまりお客さんの側で細尾のテキスタイルの使い方を発見してくれたわけですよね。これ、いいぞと。それで、ディオールの旗艦店で使われたとなると、おそらく世界中の店舗デザイナーやメゾンの人たちってそこに注目したわけで、これはなんの素材だって話になって、そこから一挙に広がった。当然、海外から問い合わせがいろいろ来て、英語での問い合わせが多かったのかもしれませんが、フランス語で来たり、スペイン語で来たりとかもあったのではないかと。それでメールや電話でやりとりして、出張して、どういう店舗でとかっていう話だったと思うのですが、そこの対応能力というのは、組織としてはけっこう大変だったんじゃないですか。

細尾真孝(以下、細尾) そうですね。全部前例のないことでしたので、西陣織が海外で展開するというのも初めてでしたし、海外のインテリア業界と西陣織のつながりもなかったですし、国内もずっといままで帯とか伝統的なものだけでしたので。

 ですから、できる限り自分で調べたり、人に聞いたり、やってみてダメだったところは修正していったりということで、とりあえず内製化を急いでやっていったというのはありますね。

山口 一方で、海外のビジネスがここから先どこまで伸びるかとかそういったのも、ある意味では不確実性がつきまとってたと思うんですね。当時は、まだピーター・マリノさんも世界的に著名なデザイナーとはいえ、やっぱりまだメゾンとしても1つしかやってない。そのときにある程度、そういう能力を経営者として獲得するのって、固定費もかかっちゃうし、ある種の怖さってあったんじゃないかなと思うんですけど、そのあたりは当時どういう感じだったんですか。

細尾 著書にも書かしていただいてるように、もともと私はミュージシャンをやりたかったのですが、実家のビジネスでクリエイティブなことができそうだっていうことで戻ってきました。そういう意味では、海外のピーター・マリノという人とセッションして曲がどんどんでき上がっていくみたいな、そんな感覚だったんですよね。だから、実はけっこう楽しみながらやっていたところはあります。

山口 そうだったのですね。