ビジネスって、いつも固定したメンバーでやろうとするけど、
不自然ですよね(山口)
1970年東京都生まれ。独立研究者、著作家、パブリックスピーカー。ライプニッツ代表。 慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科美学美術史専攻修士課程修了。電通、ボストン コンサルティング グループ等で戦略策定、文化政策、組織開発などに従事。『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社新書)でビジネス書大賞2018準大賞、HRアワード2018最優秀賞(書籍部門)を受賞。その他の著書に、『劣化するオッサン社会の処方箋』『世界で最もイノベーティブな組織の作り方』『外資系コンサルの知的生産術』『グーグルに勝つ広告モデル』(岡本一郎名義)(以上、光文社新書)、『外資系コンサルのスライド作成術』(東洋経済新報社)、『知的戦闘力を高める 独学の技法』『ニュータイプの時代』(ともにダイヤモンド社)、『武器になる哲学』(KADOKAWA)、『思考のコンパス』(PHPビジネス新書)など。神奈川県葉山町に在住。
細尾 あと最初は150センチの織機1台だけで始まって、毎年年に1台ずつ織機を増やしていきました。最初はベテランの職人が3人だけだったのが、若い職人も徐々に加わるようになっていって、デビューしたミュージシャンがだんだん曲をリリースしながら、レパートリーとかファンが増えていくような感覚もちょっとありました。当時は、父がまだ社長だったので、経営者目線というよりは、一人のクリエーターとしてそこに挑んでいったというのはあったかもしれないですね。
山口 僕も実は音楽をかじっていた時期があって、細尾さんみたいに本格的にやってはいなかったんですけども、音楽のつくられ方って企業のビジネスのやり方とだいぶ違うところがありますよね。例えば、誰かがアルバムをつくるとなると、まずはアルバムのコンセプトを立てて、次にメンバーはニューヨークにいるあいつと、ドラマーは彼とかっていうことで集めてくる。それでその人たちの持ってるある種の素材というものをうまく組み合わせることで、コンセプトにのっとった作品を生み出すわけですよね。でも、これがビジネスとなるとすごい不自然というか、いつもだいたい固定したメンバーでやろうとするでしょ。これは本来のものづくりからいったら、ちょっと変なところもあるわけですね。
細尾 そうですね。
山口 固定しているメンバー、コアのメンバーっていうのは、ある程度は固まってないといけないわけですけれども、状況に応じていろんな人と組んで物事をつくっていくっていうことを考えたほうが自然ですよね。自分たちの持っているものが素材に近ければ近いほど、そのほうがいろんな広がりが起こるわけで。ロックもジャズも基本的にはアルバムをつくるたびに、いろんなメンバーを集めて、その人たちが持っている演奏の能力ってまさに素材みたいなものなんで、あるコンセプトの下で組み合わせていくというやり方ですよね。同じようにビジネスももう少し自由になってもいいなっていう感覚が前からあったんですけど。音楽のようにプロジェクトで何か一緒につくっているという感覚だったんですね。
細尾 音楽ではフィーチャリング(客演)っていう言葉がありますが、ビジネスにおいてもそういったフィーチャリングやコラボはあっていいと思っています。会社の採用はメンバーシップ制ですけれども、それ以外に常に新しいものを生み出すために、そういう取り組みをしています。例えば、オランダ人の著名なテキスタイルデザイナーを1ヵ月間京都に家を用意して、うちの工房のメンバーとセッションしていただいて、着物の新しいカラーバリエーションをゼロから開発していくとか、常にゲストミュージシャンのような感じで外部のクリエイターと組んだりしています。
山口 意欲的な取り組みですね。
細尾 西陣って、1200年の歴史の中でメンバーシップ型じゃなくて、けっこうジョブ型だったりするんです。工程が20工程あって、1工程にそれぞれ1人のマスタークラフトマンが担当しています。しかもそれを1社で内製化してるわけではなくて、ファミリービジネスという形で西陣という経営エリアの中で分業してやっている。昔は自治組織もつくっていて、オーダー元とまったく対等というわけではないんですが、ある意味対等に近い立場でやりとりをしていた。そういうところが西陣が1000年以上も続いている一つの理由なのかなというふうに思います。