チャンスが自分に突っ込んでくるときって、
それはチャンスって書いてないんです(山口)
細尾 先日もあるプロジェクトでリクエストをいただいていた案件で、私たちの案を出したのですが、これってなんか「前にやったことをなぞってっいるな」という感覚があって、それでオッケーをもらえるかもしれないけれども、もう一回やっぱり、ひっくり返してやってみようみたいなことがありました。それで結果的にいままで自分たちにはなかった織物が、そこで生まれたりということがありました。自分たちのレベルを上げていくためには、やらなくていいことをあえてやっていく必要があるのかなって思ったんです。
山口 わかります。チャンスが自分に突っ込んでくるときって、それはチャンスって書いてないんですよね。めんどくさい仕事とか、そういうニュアンスで自分のところに来るんですけど、それと格闘して通り過ぎていくときに背中を見ると、そこに「チャンス」って書いてあるっていう感覚がすごいあって。ただ、その見極めはむずかしいですよね。ただのめんどくさい仕事っていうのも、やっぱり世の中にはたくさんあるので。
細尾 確かに。ただ消耗だけしてるっていうような。
山口 この間『シン・エヴァンゲリオン』の監督の庵野秀明さんにお話を聞く機会があったんですけども、彼はもう人が何も言ってくれないんで、自分で自分のものを壊しにいく感じだそうです。ここ、すごいよくできているけど、いままでの自分だったら100点だけど、ここをダメって誰かに言われたらさらに何か考えるかなって。それで思いつきで自分でつくったものを壊しちゃうんですよね。
細尾 なるほど、もう自分が自分と戦いながら創造していってる感じですね。
山口 ただ、そこの見極めは庵野さんなりにやっぱりあるらしくて、ここはなんかもっとよくできる気がするっていうと、すごくよくできていると思ってるシーンでも、「ここって、もっとなんかないかな」って言って、ポンとスタッフに投げちゃうらしいんです。そういうふうに言った手前、自分も考えないといけないんで、そこでどうしても彼ぐらい、もう30年もアニメの監督をやっているんで、守破離の守ということでいうと、手堅くいい映画をつくろうと思ったらそれもできちゃうんだけど、それをやっていると、進歩しなくなっちゃう。どこかでやっぱり壊しに行くっていうことをやっている。でも、それをじゃあ他人から言ってくれればいいんだけど、誰も言ってくれないんで、自分で壊しに行ってるんだなあっていう感覚がしましたね。
細尾 僕も一度、庵野さんにお会いさせていただく機会がありましたけれど、やはり庵野さんクラスになってくると、その作品って誰も文句言えないところまで行きながら、やっぱりそれでも挑戦されているというか…。確かに先日の『シン・エヴァンゲリオン』を観ても、攻めている感じがしました。
山口 彼のすごいところは、完成のかなり手前の段階で、スタジオの若手なんかにも全部見せちゃうんですね。そこが非常にニュートラルな人だなと思って。それは壊しに行くところのヒントをやっぱりつかみたいということで、なんかほんとにどんなに微妙な感覚でもいいから違和感があるとか、そういったものがあったら言ってくれっていうことをやられていて、やはりものづくりの人だなっていう感覚がしましたね。
細尾 職人的な部分もあるのかもしれないですけどね。常に向上させていくという。ただやっぱり、壊さなくてもいいものを壊すことって勇気がいることだと思うので、そこでビビらずにやり続けるっていうのは大変ですよね。
山口 そうですね。ぶっ壊しちゃった結果として、ぶっ壊さなかったほうがよかったというようなこともあるんでしょうけれどもね。でも、やっぱりトータルで見てみると、結果的にはいい作品になるという公算が、ご経験からわかる。
細尾 そうですね、伝統工芸も一回壊してみて、それでも残るものっていうところが本質的なものだみたいなところもあります。いろいろとやっていく中で、私自身もほんとにもう、壊そうと思っても壊れない強さみたいなのって、やっぱり長く続いてるものにはあるんだなと思ってまして。そういう意味では、ほんとに迷ったら一回思い切って壊してみるということも、一つあるのかなと思います。
つづく