本来の自己実現とは?

『50歳からのむなしさの心理学』(朝日選書)榎本博明『50歳からのむなしさの心理学』(朝日選書)

 このように見てくると、世の中に広まっている自己実現のイメージは、非常に利己的なものに歪められていることが分かるだろう。

 本来の自己実現とは、自分の内面が充実し、偏りやゆがみのない生き方をすることができ、自分のあらゆる能力を総動員して、より成熟した人間へと成長していく道を歩むことを指す。

 何らかの目立つ活躍をすること、業績を上げて出世することを自己実現と勘違いしている人があまりに多い。そのため、自分なんか自己実現にはまったく縁のない人間だと思い込んでいる人が少なくない。

 だが、ごく普通に暮らしている人の中に、自己実現への道を着実に歩んでいる人がいるのである。その結果として目立つような立場になる人もいるが、はじめから目立つことを目的としていれば、自己実現への道からそれてしまったに違いない。

 精神分析学者のホルネイは、自己実現にとって不可欠の条件として、「良い人間関係をつくる能力」「創造的な仕事をする能力」、そして「自分で責任を引き受ける能力」を挙げている。