「けた違いの産業」に成長する中国コンテンツ

 振り返れば、中国、台湾、香港の両岸三地のエンターテインメント業界には蜜月期もあった。今でこそ華やかな中国の芸能界だが、台湾や香港の芸能人や周辺産業の協力なしには発展できなかったと言っても過言ではない。

 従来、中国のメディアといえば、専ら党を宣伝することがその目的であり、世界の潮流を取り入れることもなく、また大衆を楽しませるようなオリジナリティーにも欠けていた。80~90年代は台湾や香港からドラマを買ってきて放送するなど、中国のテレビや映画は独自コンテンツがまだまだ限られていた時代だった。そのような中国のテレビ番組を大きく変えたのが、まさに台湾や香港の力だった。

 日本でアジア関連番組を手掛けてきたフリーディレクターの植木康さん(仮名)は、「2000年代前後は、台湾や香港の制作者が中国に入り込んで共同制作した番組がヒットしたり、こうした流れの中で中国にこれまで見られなかったアイドル文化が生まれたりと、まさに台湾や香港が中国とともに芸能界を牽引した時代でした」と語っている。

 徐々に開放が進み、2008年の北京五輪や2010年の上海万博などの節目を経て、中国のメディア業界は飛躍的に発展した。それどころか、テレビ業界は“けた違いの産業”へと驚異の成長を遂げたのである。

「中国のテレビ番組のクオリティーは非常に高いものになり、ドラマ制作に何百億円もかけるケースすら出てきました。逆に言えば、それほど投資マネーが集まるというわけです。お金をかければ質も上がるというのは当然の結果かもしれませんが、中国の番組制作者は世界のテレビ番組を実によく研究し、それをローカライズして制作できるようになりました。昔あったような“パクリ問題”も少なくなりました」(同)

 例えば、2010年に中国で放映された『三国志 Three Kingdoms』(全95話)の総制作費は実に1億5000万元(日本円にして約25億円)。登場人物は280人、エキストラ数は延べ15万人を動員したという。そもそもこれだけの人を動かすロケ地を選定できることからしても、中国だからこそ実現できるスケール感だといえるだろう。

中国・香港・台湾で
コンテンツ共有される時代も見えたが…

 急成長した中国のテレビ業界は、優れた脚本家や名俳優、演出家やスポンサーをそろえて成熟期に突入し、数知れないヒット作を世に送り出した。その一方で、視聴者の関心がインターネットに奪われる中、日本のテレビコンテンツが制作費の削減に泣かされているように、台湾や香港も“切実な台所事情”に窮するようになって行った。

 同時に中国のテレビコンテンツは「輸入」から「輸出」へと転換を見せ、世界に輸出されるようになった。中国の歌番組である「中国好声音」「我是歌手」などが台湾のテレビでも放送されるようになり、香港や台湾でも評価されるようになったのである。