ノーベル賞受賞研究の平均年齢

 眞鍋氏がCO2と気温上昇の関係にまつわる予測を発表したのは1967年。当時の彼は36歳でした。そして翌々年には、今回の受賞の大きな要因となった大気・海洋結合モデルを発表します。また吉野氏がリチウムイオン電池の着想を得たのは1983年。ちょうど彼が33歳の頃であり、その翌々年に基本概念をまとめることに成功します。お二人とも30代の研究が、結果的に社会を変える大発見につながったんですね。

ノーベル賞受賞者を調べてみると、受賞した研究を開始した平均年齢は三六・八歳だという。創造性が発揮される変異と適応の思考におけるベストバランスは、本来そのあたりの年齢なのかもしれない。
(『進化思考』p32から)

 こうしてみると図らずもお二人とも、ノーベル賞受賞者の研究における平均年齢とほぼ重なるのが分かります。ここで「変異と適応の思考におけるベストバランス」という言葉を少し補足しますね。

 創造性は生物の進化と同じように、「変異的な思考」と「適応的な思考」の往復によって出現する自然現象だと定義するのが、進化思考です。ここで言う「変異」とは新しいエラーに柔軟に挑戦する力、そして「適応」とは周囲との関係から本質を発見する観察力を表しています。進化思考では創造性を、二つの思考が闊達に往復したときに自然発生する現象だと捉えています。

 私たちは何かを考えるときに無意識に二つの思考を使い分けていますが、これらは全く違うタイプの思考であり、人によって得意、不得意もあります。また、どうやらその傾向には年齢とも深い関わりがあるのです。

 2種類の創造的思考と年齢の関係を裏付ける一つの研究を、50年ほど前にレイモンド・キャッテルという心理学者が提唱しました。彼はエラーの発生を許容したり新しい事に挑戦したりする変異的な思考を「流動性知能」、物事の理解が進み間違えにくくなる適応的な思考を「結晶性知能」と呼び、2種類の知能があることを発見しました。キャッテルはこれら二つの知能に対して、非常に興味深いグラフを残しています。

ノーベル賞に見る、創造性と年齢の関係

 キャッテルの唱える二つの知能は、私の言う変異と適応の思考と同じものを指しています。このグラフを見ると分かる通り、柔軟性を持って新しいことに挑戦する流動性知能は20歳頃を上限に生涯下がり続け、観察を通して間違えにくくなる結晶性知能は65歳くらいまでゆっくりと上がり続けて飽和します。