また、2017年にScience誌に発表された論文では、研究を開始してから5年程度の研究者が出す成果が最も生産性が高く、8年目以降は急速に減少していくというデータが示されました。年齢の問題だけでなく、同じ専門領域に長くいるだけで、変異と適応を繰り返しづらくなり、創造的生産性が落ちてきてしまうのかもしれません。

ノーベル賞に見る、創造性と年齢の関係文部科学省「日本の研究力低下の主な経緯・構造的要因案 参考データ集」より

あらゆる分野が専門分化によって矮小化したのかもしれない。自分の偏狭な専門分野に終始してしまえば、その範囲だけが業務の範囲だと考え、結局その領域の革新すらおぼつかなくなる。
(『進化思考』p13から)

 こうしたデータを見る限り、長くその領域にいるから革新が起こせるとは限らないばかりか、むしろその逆のほうが多いのです。実際にノーベル賞を受賞するような革新的研究は越境領域から発生することが多いため、そうした柔軟性ある研究は専門分野に埋没していない若い世代が担う可能性が高いのかもしれません。

 眞鍋氏と吉野氏の言葉や統計資料、キャッテルの知能に関する説を信じるなら、いかに若手研究者に活躍の場を与えるかが国の科学研究の創造性に直結することが分かります。補足ですが、私自身も残念ながらその時期を過ぎてしまった40代男性なので、我田引水のためにこの話をしているつもりはありません。真剣に日本の創造的研究の将来を考えての考察です。

 さて、こうしたデータを前提として、日本の若手研究者の現実はどうでしょう。具体的には研究を始めて8年以内の若手研究者が活躍しやすい状況を作れていれば、将来の日本の科学に不安はないはずです。しかし現実を調べていくと、目も当てられない惨憺(さんたん)たる状況が見えてきました。果たして日本は、これからもノーベル賞を取り続けられる国なのでしょうか。次回は、その辺りのお話を深めます。

<参考>
「科学技術指標2021」
https://www.nistep.go.jp/wp/wp-content/uploads/NISTEP-RM311-FullJ.pdf