テクノロジーの進化により、私たちの生活は目まぐるしく変わっている。さらなるテクノロジーの発展、浸透により、5000日後(2035年)の世界はどうなるのか――。米『WIRED』の創刊編集長を務めたケヴィン・ケリーが語る「仕事」の変化とは?『5000日後の世界 すべてがAIと接続された「ミラーワールド」が訪れる』から、一部抜粋・再編集してお送りする。 (聞き手/大野和基、訳/服部 桂)
テクノロジーの進化がもたらす
新しい「組織の形」とは?
私は新著『5000日後の世界』(PHP新書、「世界の知性」シリーズ)において、5000日後(2035年)の世界では、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)が新たな巨大プラットフォームとして君臨するだろうと述べました。ARやVRによる共同作業が進むことで、会社と呼ばれる組織自体がどんどん無意味になっていくのではないか、と思われる読者もいるでしょう。フリーランスが増えて、ちょっとした頼まれ仕事で経済が動く、いわゆるギグ・エコノミーが進展するのかどうか、という予想もありますね。
一般的にテクノロジーは、どんどん累積していきます。古いものが消えてしまうことはほとんどありません。現在のようにフェイスブックやグーグルといった超巨大企業がある時代でも、夫婦で経営する小さなレストランは残っていますし、それらは消えるどころか、以前にもまして増えています。ですから株主が支えるグローバル企業が消えてしまうということもないでしょう。たぶんそれに加えて、もっと多くの組織が作られるはずです。
フリーランスはおそらく今後も増えていくでしょう。現在のところまだ世界の人口は増加し続けているので、あと50年はこうした動きが続くと思います。
注目したいのは、これまでは存在しなかった種類の組織ができないか、できるとしたらどんなものになるかという話です。例えばギットハブ(GitHub:プログラムのコードやデザインのデータを世界中の人が保存・共有できるサービス)などでは多くの人がゆるく共同作業をしており、誰か一人が経営しているとか、上司から直接命令されるような形にはなっていません。新しい仕事の形についてはまだいい名前が思いつきませんが、これからはより多くの組織が仕事をしてお金も稼いでいくと思います。
いずれそういうものが一般的になっていき、それなりの地位を確保するでしょう。しかしそれらが会社組織を廃業に追い込むとか取って代わるということはなく、「もう一つの選択肢」になっていくと思います。