リモートワーク、残業規制、パワハラ、多様性…リーダーの悩みは尽きない。多くのマネジャーが「従来のリーダーシップでは、もうやっていけない…」と実感しているのではないだろうか。
そんな新時代のリーダーたちに向けて、認知科学の知見をベースに「“無理なく”人を動かす方法」を語ったのが、最注目のリーダー本『チームが自然に生まれ変わる』だ。
部下を厳しく「管理」することなく、それでも「圧倒的な成果」を上げ続けるには、どんな「発想転換」がリーダーに求められているのだろうか? 同書の内容を一部再構成してお届けする。

真のリーダーが持つ「根拠のない自信」の正体とは?Photo: Adobe Stock

「できる手応え」と
「できる能力」は別問題

 前回の記事では、リーダーが一見“何もしていない”ように思えるのに、次々と自発的なアクションやイノベーションが生まれてくるチーム・組織には、「(1)正しいゴール設定」と「(2)十分なセルフ・エフィカシー」という2点が共通していることを見てきた。

 ここでのエフィカシーとは「自己効力感」、つまり、「一定の行為・ゴールの達成能力に対する自己評価」であり、「自分はそれを達成できるという信念」のことだった。

 ただ、ここで改めて強調しておきたいのは、エフィカシーはあくまでも「認知」でしかないということだ。

 つまり、問われているのはあくまでも「その人が『自分にはできる』と信じているかどうか」であり、「その人が実際にできる(能力がある)かどうか」ではない。

 したがって、極端な話をすれば、個人のエフィカシーにとって、エビデンスは必要条件ではない。

 少々乱暴な言い方をするならば、エフィカシーには「根拠のない自信」とも呼ぶべき側面があるのだ。

 たとえば、「自分は毎年1億円の売上実績を出してきた。だから、今年も1億円を稼げる気がする」と考える人もいれば、「自分はこれまで何も仕事をしていないニートだったが、1億円くらいすぐに稼ぐことができる。できる気しかしない」と言ってのける起業家もいる。

 どちらもエフィカシーが十分に高いので、誰からも強制されなくとも、その達成に向けたアクションをあたりまえのように開始するはずだ。

 そう聞くと、「できる気しかしない」という認知が、何かクレイジーなものに思えてくる人もいるだろう。

 なるほど、たしかにクレイジーかもしれない。

「できるかどうかわからないこと」について、「自分にはできる。できる気しかしない」と考えるなんて無謀極まりない。果たして、そんな認知がリーダーシップの原理になり得るのだろうか?

「根拠なき自信」の持ち方は、
認知科学が教えてくれる

 しかし、よく考えてみてほしい。

 この世界の大半は、そうした「根拠のない自信」から生まれたもので成り立っている。

 いま、誰もがスマートフォンを持っているのは、「誰もがiPhoneというデバイスを持っている世界を実現できる。できる気しかしない」という現実離れした確信を持った人物がいたからだ。

 人が月に行くことができたのは、「人間は月に行ける。行ける気しかしない」という途方もない認知を持った集団が過去にいたからだ。

 革新的な発明や偉業につながる壮大な目標、いわゆる「ムーンショット(Moonshot)」の背後には、必ずなんらかの根拠なき自信がある。

 このように、「達成が不確実なゴール」に対してエフィカシーを抱くことは、人間にとって決して不可能なことではない。

 起業家というのはその典型だろう。

 そうである以上、スタートアップ企業はその本質上、異常に高いエフィカシーの産物だと言えるだろう。

 また、これは決して突飛なことでもない。

 実際のところ、リーダーが叱咤激励をしなくても、メンバーが自然と動き回れる強靭なチーム・組織においては、高いエフィカシーが実現している。

 競合する組織が「それはさすがにムリじゃないですか……」と尻込みするようなゴールに対して、彼らは「自分たちにはやれる気がする/やれる気しかしない」という認知を形成できているわけだ。

 問題は「そのような認知がいったいどのようにして可能なのか?」ということだ。

 これに対して大きな手がかりを与えてくれるのが、人の「ものの見方」に関する研究、いわゆる「認知科学(Cognitive Science)」である。

 なお、『チームが自然に生まれ変わる』では、「認知科学の基本的な考え方」について手短に解説したうえで、どうすれば人・組織のエフィカシー水準を高められるのかについても、具体的な方法論とともに紹介しておいた。

 このメカニズムがわかると、なぜ従来のリーダー論が効果を発揮できないのかについても、見通しがきくようになるはずだ。

 さて、もしあなたが組織やチームのリーダーであるなら、あなた自身はどんな「ゴール」を持っているだろうか? そのゴールに対して十分な「エフィカシー」を抱けているだろうか? また、あなた自身の「ゴール」や「エフィカシー」は、チーム内のメンバーにどんな影響を与えているだろうか? ぜひ、振り返ってみてほしい。