日本は米CDCよりも英国の組織から学ぶべき

 日本が英国を参考にすべきは、感染症のパンデミックに対応する医療体制の確立だけではない。専門家会議のあり方も学ぶことができる。

 私は、感染症のパンデミックには主に3つの対策が必要だと考える。「感染拡大を防ぐ対策」「医療体制の確立」「ワクチン開発・接種」である。

 しかし、日本の新型コロナ対策は「感染拡大を防ぐ対策」一本やりで、ひたすら国民に行動制限を求め続けた。実際、医療体制の問題は、政府の専門家会議・分科会でほとんど議論されなかった。

 分科会の議事録を確認すると、昨年12月、医療逼迫・医療崩壊の危機を理由に2度目の「緊急事態宣言」が発令された後、第22回(21年1月15日)にようやく「医療提供体制の課題」が議論されたのだ。それは、政府の専門家会議・分科会のメンバーである医師は、ほぼ感染症の専門家だけで占められているからだ。彼らは感染症の予防・治療は専門でも、医療体制構築の専門家ではないのだ。

 現在、日本にも「米疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention=CDC)」のような組織の設立を求める声がある。だが、私はむしろ、英国の「非常時科学諮問委員会(Scientific Advisory Group for Emergencies=SAGE)」のような組織が必要だと考える。

 CDCは、米国保健福祉省所管の感染症対策の総合研究所である。CDCは、パンデミックという緊急事態に対応する組織でありながら、実態は感染症の正確なデータを収集して学術誌に発表することに熱心な「平時の大学」のような研究所である、だから、米国民の生命を守るという本来の使命を果たしていない、という厳しい批判がある(Lewis,2021)。

 これならば、日本には既に「国立感染症研究所(感染研)」がある。日本版CDCをつくるのは、「屋上屋を架す」ことになりかねない。日本版CDCと既存の感染研の間で意思決定が混乱するだけだ。

 それ以上に問題なのは、感染症の専門家だけを集めた組織では、結局「感染症の予防・治療」だけに終始することだ。何度でも強調するが「医療体制の確保」も重要であり、それには感染症の専門家とともに、他の疾病の専門家などを含めて議論する必要がある。

 また、感染症の専門家しかいないことで、「感染症の予防・治療」の対策そのものも機能不全に陥っている。国民に行動制限を求めるにしても、行動科学の専門家がいないため、非科学的な精神論を国民に訴えることに終始してきたのではないだろうか。

 だから、今、日本には「SAGE」が必要なのである。