岸田文雄内閣は、新型コロナウイルスの「第6波」対策として、医療体制の確保や法的措置も検討を進めている。しかし現在の医療体制が前提であるならば、医療崩壊に備えた抜本的な解決ではないだろう。そこでモデルとすべきは英国の体制である。(立命館大学政策科学部教授 上久保誠人)
筋が悪いコロナ対策、日常的な医療が危ない
岸田文雄内閣は、コロナ対策として、11月末までに3万7000人分の病床を確保し、重症化するリスクのある患者向けに臨時の医療施設を、今夏の「第5波」時と比べて約4倍の3400人が入れる体制を築くと発表した。
また、国や自治体が病床や医療人材を確保しやすくするため、法的措置を検討するという。医療逼迫・医療崩壊の危機に陥る場合には、国の責任で通常医療を制限して病床を確保する。
これまで、医療崩壊の危機に対して地方自治体任せで、国は国民に行動制限を求め続けるばかりだったが、(本連載第277回)。そこからは一歩前進した。ただ。抜本的な解決ではない。
現在の医療体制を前提に、新型コロナ対応の病床・人材を増やすことは、心臓病・脳卒中・がんなどのその他の疾病対応の病床・人材を減らすということだ。これは、慎重に行うべきだ。
大学病院など大病院には、心臓移植、肺移植などの難しい高度な技術が必要な治療や手術を受けるために入院している患者がいる。新型コロナ用の病床を増やすと、それらの高度な治療・手術を受けられなくなる懸念がある(第262回)。
また、中規模病院や開業医が「かかりつけ医」として、基礎疾患を持つ人の症状の日常的な管理を行ってきた。個人的な意見だが、これは日本の新型コロナの重症者、死亡者が欧米に比べて非常に少ない「ファクターX」の一つかもしれないと私は考えてきた(第262回・p5)。
要するに、限られた医療リソースを、新型コロナ対策と、高度医療と、日常的な医療の間でどうバランスさせるかが重要なのだが、その議論が十分にできていない。それなのに、国の権限を法的に強化して、通常医療を制限して、半ば強制的にコロナ用の病床を確保するというのは、自由民主主義国の政策として筋が悪いと思う。