これらに招集される専門家は、研究者として業績豊富であるだけでなく、行政の経験も豊富である。英国では、90年代から00年代にかけてトニー・ブレア政権により、「科学的エビデンスに基づく政策立案(Evidence Based Policy Making=EBPM)」導入の方針が推進され、大学・研究機関や公的セクターをまたいだエビデンス活用のさまざまなネットワークが構築されてきた(内山他, 2018)。 

 また、各省庁では、若手の科学者が政策立案過程に加わり、大臣に対して科学的助言を行う「主席科学顧問」(CSA)が置かれている。CSAは、経験豊富な教授レベルの人物で、任期は3~5年である。

 さらに、内閣府には、Open Innovation Teamという、学界と協働で政策アイデアの創出・分析を支援する組織が設置されている。大学との連携で、会議・セミナー・ワークショップ等を行い、新しいアイデアの実験や分析、政策提言を行っている。

 大学側も、専門家と行政をつなぐ組織を設置している。例えば、ケンブリッジ大やロンドン大などには、行政への助言、行政との議論の場の設置、EBPMを担う人材育成等を行う部局がある(村木、2020)。

 このような、学界と行政の連携のさまざまな取り組みを通じて、政策立案の場に科学者に入り、さまざまな経験を積んでいき、CSAやSAGEのメンバーとなっていく仕組みができているのである。

専門家が政府に「お墨付き」を与える日本の体制ではダメ

 要するに、英国では各省レベルから首相官邸まで、専門家が重層的に入って科学的に政策が立案されている。それは、各省庁で官僚を中心に政策を立案し、審議会でその政策に、既に研究の第一線から外れた学界の重鎮が「お墨付き」を与えるだけという日本の政策立案とはまったく違うものである(第242回)。

岸田政権の筋が悪いコロナ対策、専門家との関係構築は米国より英国に倣え本連載の著者、上久保誠人氏の単著本が発売されています。『逆説の地政学:「常識」と「非常識」が逆転した国際政治を英国が真ん中の世界地図で読み解く』(晃洋書房)

 感染症のパンデミック対策は、日本版CDCのような新しい組織をつくれば、万事うまくいくという単純な話ではない。パンデミックは社会全体に関わるものであり、さまざまな分野の専門家による「オールジャパン体制」の組織が必要だ。

 また、官僚の政策に「お墨付き」を与えるだけの権威はいらない。省庁レベルから若手の第一線の研究者が入り、科学的な政策立案を行う。そういう行政と学界の経験を豊富に積んだ専門家が、政府に助言する立場となる。日本版SAGEのような組織が必要なのである。