一説によると、日本の老眼人口は総人口のおよそ半数の7000万人超だという。
眼の老化は15歳前後から始まるが、一般に生活に支障が出てくるのは40歳以降だ。3人に1人が65歳以上の高齢者という現状からすれば、老眼人口の多さも驚く話ではない。
老眼は生体レンズの役割を果たす水晶体が老化で弾力を失うと同時に、水晶体を変形させてピントを調節する「毛様体筋」の働きが衰えることで生じる。
老眼矯正の手段は遠近両用のメガネやコンタクトレンズくらいだった。しかし、今年10月末に目薬(点眼薬)という手段が加わった。
米食品医薬品局(FDA)が、美容医療や眼科医療で定評があるアラガンが開発した老眼治療用の点眼薬を、世界で初めて承認したのだ。
40~55歳の成人男女750人が参加した臨床試験の結果をみると、1日1回の点眼で、早ければ15分後から効果が表れ、30日間連続で点眼した後は効果が最長で6時間続いている。遠方を見る視力への悪影響もなく近くにピントを合わせることができ、副作用は頭痛や目の充血などだった。
本点眼薬の有効成分は、緑内障の治療にも使われる「ピロカルピン」で、瞳孔(瞳の中心の黒い部分)を取り巻く瞳孔括約筋を収縮させて瞳孔を縮めることで近くにピントが合うようになる。かなり進んでしまうと矯正は難しいが、軽症~中等症の段階なら効果は期待できるという。臨床試験と同じ40~50代が使い時だろう。
点眼薬以外の医療的な老眼矯正手段は、水晶体を遠近両用の眼内レンズに交換する方法がある。
レンズ代が高額(自費診療分)で見え方の質に一長一短があることを考えると、70歳以降の白内障手術のついでが現実的。老眼の進行を抑え手術までの時間稼ぎができるなら、それに越したことはない。日本での承認申請が待たれる。
ちなみに日本を含めたアジア圏では、同じ有効成分で子供の近視の進行を抑える点眼薬の開発が進み、国家レベルで学童の近視対策が行われているシンガポールでは、すでに利用されている。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)