1200年続く京都の伝統工芸・西陣織の織物(テキスタイル)が、ディオールやシャネル、エルメス、カルティエなど、世界の一流ブランドの店舗で、その内装に使われているのをご存じだろうか。衰退する西陣織マーケットに危機感を抱き、いち早く海外マーケットの開拓に成功した先駆者。それが西陣織の老舗「細尾」12代目経営者の細尾真孝氏だ。その海外マーケット開拓の経緯は、ハーバードのケーススタディーとしても取り上げられるなど、いま世界から注目を集めている元ミュージシャンという異色の経営者。そんな細尾氏の初の著書『日本の美意識で世界初に挑む』がダイヤモンド社から発売された。閉塞する今の時代に、経営者やビジネスパーソンは何を拠り所にして、どう行動すればいいのか? 同書の中にはこれからの時代を切り拓くヒントが散りばめられている。同書発刊を記念してそのエッセンスをお届けする本連載。好評のバックナンバーはこちらからどうぞ。
帯の技術と素材を使って、テキスタイルの開発を依頼したい
海外マーケット開拓に打開の糸口が見えない中、大きな転換点になったのは、二〇〇八年一二月にパリの装飾美術館で開かれた「kansei - Japan Design Exhibition」という展覧会でした。
これは、日仏交流一五〇周年を記念した展覧会で、「日本の感性価値」がテーマでした。私たちは西陣織の、琳派(りんぱ)柄の帯二本を出品しました。
この展覧会では工芸品だけでなく、任天堂のゲーム機や、チームラボが制作したアニメーション、深澤直人氏がデザインした携帯電話、リコーのカメラなどもありました。この展覧会は非常に好評で、翌年ニューヨークに巡回しました。
美術館での展覧会なので、ビジネスに発展するとは思っておらず、「多くの人に西陣織を見てもらえたらいいな」という程度の軽い気持ちでした。
ところが翌年の二〇〇九年、ニューヨークでの巡回展が終わった直後に、ニューヨークから一通のメールが細尾に届いたのです。
「展覧会で帯を見た。その帯の技術と素材を使って、テキスタイルの開発を依頼したい」
というものでした。驚いたことに、ニューヨークの有名建築家、ピーター・マリノ氏からの依頼でした。
ピーター・マリノ氏は、世界で五本の指に入る建築家で、インテリアデザイナーとしても活躍されています。ラグジュアリーブランドの建築を数多く手がけている人で、ディオールやシャネルなど、世界中の店舗のデザインを行なっていることでも知られています。
二〇一二年にはフランスで芸術家に与えられる最高の名誉、「芸術文化勲章オフィシエ」も受勲したほどの建築家です。