認知科学をベースに「無理なく人を動かす方法」を語った『チームが自然に生まれ変わる』は、マッキンゼーやネスレ、ほぼ日CFOなどを経て、エール株式会社の取締役として活躍する篠田真貴子さんも絶賛する「新時代のリーダー論」だ。
多くのマネジャーが「従来のリーダーシップでは、もうやっていけない…」と実感しているいま、部下を厳しく管理することなく、それでも圧倒的な成果を上げ続けるには、どんな「発想転換」が求められているのだろうか?
部下の夢を肯定できない
リーダーは最悪である
組織マネジメントに携わる人のなかには、部下個人のWant to(やりたいこと)を掘り下げるセッションやワークを行うことに及び腰になる人がいる。
メンバーそれぞれが「自分のやりたいこと」を見つめはじめると、目の前の仕事に対する熱意を失ったり、他社への転職や独立を考えはじめたりするのではないかとの懸念があるためだ。
「現状レベルでいいから、ひとまず部下たちにはいまの仕事を黙ってこなしてほしい」と考えているリーダーほど、メンバーが「自我」を持つのを快く思わない。
部下をHave toまみれにして自己効力感を低く抑えつけておき、「どうせ自分たちはこの程度の仕事しかできないんだ」という認知を持たせておいたほうが、仕事がうまく回ると考えている。
だから、「部下にWant toを探らせる」なんて余計なことはしないほうがいいと言う。
彼らの心配は、あながち的はずれとも言えない。
真のWant toを探索した結果、いまの仕事を辞めたり組織を移ったりする決断を下す人は、たしかに一定数いるからだ。
しかし、もしそうなのだとしても、これからのチームマネジメントにおいては、個人のWant toを抑えつけることはおすすめできない。
人を動かす「最大の熱源」はもはやそこにしかないし、優秀な人材ほど強烈なWant toを持っているからだ。
具体例を見てみよう。
ある日、150人以上の部下を束ねるベトナム人のカントリーマネジャーから、経営幹部のところに連絡が入った。
ハノイ工科大学をトップクラスの成績で卒業し、ベトナムマーケットの責任者として高いリーダーシップを発揮していた彼が、自分のキャリアのことで悩んでいるらしい。
場合によっては、会社を辞めることまで考えているらしかった。
経営幹部は急いで彼との1on1の場をセッティングし、彼の「真のWant to」にじっくり耳を傾けることにした。
すると、彼が胸に抱いている野心的なパーパスの存在が徐々に見えてきた。
どうやら彼は、既存ビジネスのマネジメントよりも、新規事業の開発のほうに強い関心があるらしい。
彼は自身でビジネスを立ち上げるだけでなく、投資家として複数のベンチャー企業を育てていくという夢も持っていた。
そのためにすでに起業家コミュニティを立ち上げており、そこで定期的な勉強会を行ったりもしているという。
「将来、ベトナムに100億円規模の会社を500社つくりたいと思っています」
彼が語った途方もないゴールは「現状の外側」にあり、まさにパーパスと呼ぶにふさわしい。
経営幹部から見ても、彼のパーパスが組織のパーパスと関係しているのかどうかは、かなり微妙なところだったものの、2人は両者が重なり合うポイントについてじっくりと語り合った。
その結果、このカントリーマネジャーは最終的に会社に残ると決めた。
そしていまでは、これまで以上のリーダーシップを発揮し、彼が率いる150人以上のチームはさらなる進化を遂げている。
強いWant toを持つ人材ほど、本書のリーダー論(エフィカシー・ドリブン・リーダーシップ)との親和性が高い。
もし経営幹部が彼のWant toに正面から向き合うことなく、頭ごなしに抑えつけようとしていれば、彼はすぐに組織を離れていただろう。
メンバーのWant toを肯定できないリーダーは最悪だ。
部下の「やりたいこと」をポジティブに受け止められないのは、リーダー本人がHave toに押しつぶされそうだからではないか。
「自分がこんなに我慢しているのに、好き勝手なことを言いやがって」としか思えないのではないか。
「こんなことをやってみたいんです。どうやればいいかはわかりませんけど……でも絶対にできると思っています」
部下からそう聞かされたとき、あなたはどう受け止めるだろうか?
メンバーの自己効力感の高まりを心から喜べるだろうか?
もし心のどこかに引っかかりを感じるのなら、まずは自分の目線が低すぎないかを振り返ろう。