認知科学をベースに「無理なく人を動かす方法」を語った『チームが自然に生まれ変わる』は、マッキンゼーやネスレ、ほぼ日CFOなどを経て、エール株式会社の取締役として活躍する篠田真貴子さんも絶賛する「新時代のリーダー論だ。
多くのマネジャーが「従来のリーダーシップでは、もうやっていけない…」と実感しているいま、部下を厳しく管理することなく、それでも圧倒的な成果を上げ続けるには、どんな「発想転換」が求められているのだろうか?

その「やらされ感」…もしかして「社畜リーダー」のせいでは?Photo: Adobe Stock

みんな「自分なりに」がんばっている

「部下にやる気が感じられない……」
「上司から言われたことしかやらない……」
「職場全体がなんとなく冷めている……」

 こうした状況に「あるある!」と共感を覚える人も(また、そうでない人も)、認知科学のパラダイムで人の行動をとらえるようになると、当初とはまったく違った世界が見えてくるようになる。

「たるんでいる」「サボっている」──そんなふうに思えてしまうのは、リーダー自身の認知モデルが「やる気」にとらわれているからだ。

 チーム内に「熱量の高いメンバー」と「熱量の低いメンバー」が生まれるのは、一方に「やる気」が溢れていて、他方に「やる気」が欠けているからではない。

 熱量が低いように見えるメンバーは、言われたことをそれなりにこなす「現状」に没入しきっており、「自分が積極的に行動を起こす世界」のほうに臨場感を抱けていないだけだ。

「私は私なりにがんばっているんですよ!」
「ぼくだってできるかぎりやっています!」

 これが部下たちの本心だ。

 たしかに誰もが「私なり」に「できるかぎり」の仕事をしている。

 それは完全に正しい。

 決して「サボってやろう」「手を抜いてやろう」と思っているわけではない。

 現時点での各人の内部モデルからすれば、それくらいの仕事レベルで満足するのがあたりまえだし、何が問題なのかがさっぱりわからないのだ。

 だから、「どうしてもっと熱意を持てないのか!」「仕事への責任感が足りない!」といったリーダーの注意は、部下にはまったく届かない。

「なぜうまくいかなかったと思う?」「気になっていることをなんでも言ってみて」といった声掛けも、なんの効力も発揮しない。

 リーダーがしつこく言葉を投げかけるほど、彼らは「自分なりにがんばっている世界」に引きこもっていく。

集団の行動は「3ステップ」で変わっていく

 いきなりメンバーの行動を変えようとしてはいけない。

 リーダーにやれるのは、部下たちが見ている「景色」を変えることだ。

 そのための第一歩が、まずリーダー自身が「現状」への埋没状態から抜け出し、個人としての「真のWant to」を組織のパーパスに重ねていくことだった。

 リーダーがHave to(やりたいわけではないが、やらねばならないと思い込んでいること)にとらわれていれば、その姿勢はメンバーに伝播していく。

「リーダーである私がこんなに我慢しているのだから、みんなにもこれくらい耐えてもらわないと……」という暗黙のメッセージはメンバーに広がり、Have toにまみれたチームが出来上がっていく。

 だからこそ、まずリーダー自身が「自分だけのゴール」にのめり込んでいなければならない。

 これは、数値目標の必達を盲目的に追い求める「社畜上司」や、やる気とか情熱をいたずらにアピールする「熱血上司」とはわけが違う。

「業界トップを目指そう!」「オレの背中を見てついてこい!」などと言ってみたところで、そんな言葉に感化される部下はいまどきもういないと思ったほうがいいだろう。

 そうではなく、「現状の外側のゴール」にセルフ・エフィカシー(自己効力感)を抱くとはどういうことか、なぜそれが圧倒的な行動へのドライバーとなるのかを、リーダーがみずから体現して周囲に見せていくしかない。

 それがチームを生まれ変わらせる土台となる。

 それができたなら、いよいよ今度こそは、それぞれのメンバーたちが、そしてチームや組織が変わる番だ。

 リーダー自身が体験した(あるいは、体験しはじめている)変革のプロセスを、彼らのなかにも巻き起こしていかなければならない。それがリーダーとしての次なる役目である。

 問題は、それをどのようにサポートしていくかである。

 ここにも大きく3つの段階が考えられる。

 ステップ(1) 自分自身の真のWant toに気づかせる
 ステップ(2) 組織のパーパスを自分ごと化させる
 ステップ(3) ゴールへのエフィカシーを高めていく

 メンバーたちに必要なことも、ベーシックな部分についてはリーダーのそれと変わりはない。

 ただし、メンバーのエフィカシーを高めていくプロセスを誤ると、メンバーの内部モデルはますますHave toでがんじがらめになり、現状維持マインドを強化してしまうことにもなりかねない。

 こうした罠を回避しつつ、チームのメンバー全員が本音中の本音で「やりたい」と思えることと向き合えている「メンバー全員Want to」の状態を実現していくには、どうしていけばいいのだろうか?

 次回以降はこれについて解説していくことにしよう。